しかし、婚約指輪にイニシャルなどの刻印がある場合、転売困難で交換価値は下がり、購入代金には及びません。それでも婚約解消が女性の一方的な原因によるもので、息子さんへの不法行為になる場合には、指輪の購入額を損害として請求することもできます。
ただ、刑事問題にするのは難しいと思います。婚約解消になれば返すべきで、解消後の売却は一種の二重譲渡で横領になる、あるいは保管義務に違反して背任になるなどの理屈はありますが、婚約解消は届出が必要な離婚とは違い、はっきりした区切りはつけがたいのが普通だからです。
加えて一旦は女性の所有になり、後記のように返還義務を負わない場合もあるので、指輪を売った際に、明確に返す義務が生じていたか不明で、こうした罪に問うのは困難です。
なお、結納を渡した側に婚約解消の責任があった場合、相手は返す義務がないとされており、指輪も同様でしょう。指輪を売るのは非常識ですが、息子さんへの怒りも感じられます。息子さんに責任があるときには、当然のことながら、指輪を返せ、とはいえません。
【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2019年3月1日号