音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、「カジュアルラクゴ」で人気の月亭遊方のさらりと胃もたれしない笑いについてお届けする。
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江戸落語を聴いて育ち、東京に住んでいる僕のような人間は、ナマの上方落語に接する機会が非常に少ない。それだけに、偶然出会った一席のインパクトは重要だ。
上方の「高座のロックン・ローラー」月亭遊方。日常生活の中の笑いをドタバタ劇に仕立てる「カジュアルラクゴ」と称する新作で人気の演者だが、「新作派ならではの視点」で再構成した古典も面白い。無理に古典をイジるのではなく、その噺の本質的な可笑しさを自身の個性で増幅してみせるという、東京で言うと春風亭昇太に通じるやり方だ。
数年前、僕は岐阜で遊方の『たとえばこんな誕生日』を観た。自分で自分の誕生日のケーキを買って帰る途中で事故に遭った男が、救急隊員に「一人で誕生日を祝う寂しい男」であるとバレてあれこれツッコまれるという、カジュアルラクゴの傑作だ。僕はその高座のあまりの面白さに衝撃を受け「東京に来たときは追いかけよう」と心に決めた……のだが、機会はどうしても限られた。
その遊方が、東京で「ときどき無性に遊方噺」という隔月の独演会を始めた。場所は神保町・らくごカフェ。12回連続ということで、第1回は1月16日に行なわれた。
まずは、日常で遊方が出会った「クスッと笑える小ネタ」を披露する「小ネタパネルトーク」。パネルに掲げられた10の小ネタのうち「ガストの店員」「天王寺警察の婦警」「びっくりぽん」等、客が選んだ6つの小ネタが披露された。日常マクラの連続みたいなものだが、上方の演者らしい趣向で実に楽しい。