千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛(みあ)さんが自宅で死亡しているのが見つかり、父親の勇一郎容疑者が傷害容疑で逮捕された事件で、児童相談所のあり方が問われている。そこに横たわる問題の一つが、児相が根本的に抱える「児童虐待の専門機関ではない」という点だった。
今回の件では、心愛さんが学校を長期間欠席しているなどのリスクを放置し、また親族のもとから自宅に帰す決定をしたなど、県柏児相の対応が不適切だったのではないかと指摘されている。
こうした虐待事件が起こるたびに巻き起こるのが、児相や児童福祉司などのリソース不足の問題だ。現に2017年度に児相が児童虐待の相談・通告に対応した件数は全国で約13万件で、30年間で100倍以上に増加した。千葉県は約7900件で、柏児相では児童福祉司1人で年間43.6人を担当する計算になる。
しかし、その人手不足以上に深刻なのが、質の問題だという。児童福祉に深く関わる家庭裁判所職員のAさんは言う。
「児童相談所は、その名の通り相談機関。養育支援や援助を求めて、子育てに困った人が相談する場所なんです。にもかかわらず、寄せられるのは虐待の通報ばかり。そこにズレが生じているのは確かです」
虐待を受けている子供を親から引き離す必要がある場合、児童相談所は子供を児童福祉施設に入所させたり、里親に委託するなどの措置を家庭裁判所の承認を得て行う(いわゆる「児童福祉法28条事件」)。その他、親権を濫用して子を虐待している親の親権を喪失させたり、子のために後見人を選ぶなど、児童虐待と家庭裁判所の関わりは深い。Aさんが数多くの虐待ケースを見てきた中で感じたのが、児童相談所にまつわる制度自体の脆弱性なのだという。
「近年、強制立ち入りなど児相の権限を強化する方向で法改正が進んでいることは確かです。ただ、児童福祉司は児童相談所に配属された公務員で、専門的な知識や技能を持った士業ではありません。ジョブローテーションの一貫で、福祉とは無関係の部署から異動してくることもよくあります。また、親に『権利侵害で訴える』などと言われた際に個人を守る制度もありません」(Aさん)