江戸時代には東海道でも屈指の難所と呼ばれ、箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬと言われた大井川。その大井川が原因で、中央リニア新幹線プロジェクトが困難に直面している。トンネル掘削によって大量に噴出する大井川水源の水を、どのように処理するのかという問題だ。ライターの小川裕夫氏が、大井川を挟んで静岡県とJR東海が直面している問題についてレポートする。
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JR東海が2027年開業を目標に工事を進める中央リニア新幹線。約9兆円も投じる一大プロジェクトは、JR東海にとって社運を賭けたと形容しても過言ではない。その一大プロジェクトに暗雲が立ち込めはじめた。
先の山梨県知事選で当選した長崎幸太郎新知事が、甲府に建設が予定されているリニア駅の周辺整備計画を白紙撤回することを示唆しているからだ。また、長野県でも阿部守一知事がリニア建設によって排出される残土処理で、環境に配慮することを要請。
早期の開業を目指していたJR東海にとって、クリアしなければならない課題が増え、そのために開業年がさらに遅れる可能性も否定できない。
とはいえ、山梨県や長野県はリニア開業で恩恵を受ける。だから、リニアの早期建設・開業を望む声も根強い。
問題は、リニアが通るだけで駅が設置されない静岡県だ。
東京と名古屋を約40分で結ぶ中央リニアは、路線の大半が山の中を走る。そのため、中央アルプス・南アルプスにトンネルを貫くための大工事をしなければならない。単純に山を掘削するだけでも大変な作業だが、南アルプスの地下には大井川の水脈がある。この水を巡って、静岡県とJR東海が対立しているのだ。
トンネル工事では、事前から大量の水が湧き出ることが予測されていた。その湧き水の扱いを巡って、静岡県側は「湧き水の全量すべて戻す」ことを主張。一方、JR東海は「減量分を戻す」と主張した。
静岡県とJR東海の意見対立は、平行線をたどった。そのため、静岡県の川勝平太知事はリニアのトンネル掘削工事を許可しなかった。
「だからと言って、静岡県がリニア建設を反対しているというわけではありません。行政は暮らす人たちを守るのが務めです。リニアの掘削工事をするなら、きちんと地元自治体の言い分を聞き、地元住民の生活が脅かされないようにしてほしいとお願いをしているのです」と説明するのは、静岡県くらし・環境部環境局水利用課の担当者だ。