英経済学者のケインズは「美人投票は株価予想と同じ」と言った
美人投票といえば、数々のミスコンのほか、最近ではAKB48のメンバー人気を決める選抜総選挙もすっかり定着したが、「もし投票したメンバーが1位になったら、食事を奢ってもらえる」という約束を仲間どうしで交わしたとしよう。あなたは、純粋に“推しメン”に投票するだろうか。それとも、1位になりそうなメンバーに投票するか──。投票で他人の選択をどう読むかは、実に奥が深い。ニッセイ基礎研究所上席研究員の篠原拓也氏が解説する。
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自由経済では、いろいろな市場がある。市場では、対象のモノを売り手と買い手が自由に取引する。取引が成立すると、市場価格が定まる。金融経済学では、研究テーマとして効率的市場がよく取り上げられる。市場価格がモノの値段に関する情報を完全に反映していて、ある情報を得た人がその情報をもとにモノを安く買って高く売る「サヤ抜き」ができない場合、その市場は効率的市場と呼ばれる。
効率的市場については、「ケインズの美人投票」が有名だ。イギリスの著名な経済学者であるケインズは、効率的市場の考え方には懐疑的だったとされる。
効率的市場の考え方を擁護する人々は、「プロの資金運用者が抜け目なくサヤ抜きをするので、市場は常に効率的になる」と主張する。しかし彼は、「株式市場での株価予想は美人投票と同じようなもので、プロの資金運用者はサヤ抜きではなく株価の推測ゲームをしているのだ」と指摘した。ここで、美人投票というのは、次のものを指す。
◆ケインズの美人投票
投票者は、100枚の写真の中から、最も美しい顔をした6人を選ぶ。投票者全員の投票により、平均的な好みが決まる。その好みに最も近い選択をした投票者が勝者となり、賞品を得ることができる。
この投票のポイントは、投票者は、自分が美人だと思う人を投票するのではなく、他の投票者が美人だと投票するであろう人を投票する、というところにある。つまり、他人の行動を予想するのだ。これは、単純そうに見えて、実は奥が深い。他人がみんなそれぞれの好みに投票すれば、話は簡単だ。多くの人が好みと思うであろう写真を予想すればよい。
だが、他人も自分と同じように、集団の平均はこうなるだろうと考えて、そこに投票するかもしれない。そうなると、その上をいくためには、「集団の平均はこうなるだろう」と考えて投票する人の平均、を考える必要がある。
しかし、他人もこれと同じ考え方をするかもしれない。すると、さらにその上をいくには、「『集団の平均はこうなるだろう』と考えて投票する人の平均はこうなるだろう」と考えて投票する人の平均、を考える必要がある。つまり、「『平均』の平均」の平均を考えないといけない……。
平均が乱発されて、なんだか、訳が分からなくなってしまいそうだ。そこで、ケインズの美人投票をアレンジした、行動経済学のある実験を紹介することにしよう。