【著者に訊け】近藤雄生氏/『吃音 伝えられないもどかしさ』/1500円+税/新潮社
幼児の吃音は20人に1人の割合で発生し、消えずに残るケースが人口の約1%。この数字はほぼ世界共通で、日本には今も100万人近い吃音者がいる計算になる。
『吃音 伝えられないもどかしさ』の著者・近藤雄生氏自身、宇宙飛行士や物理学者の夢を吃音ゆえに諦めた当事者。東大大学院修了後、就職を断念し、世界中を旅しながら物を書く道を模索した彼は、中国滞在中、〈一杯珈琲〉とどもらずに言えた日を境に症状が改善。今では片鱗すら窺えないが、言いにくい音は他の言葉に言い換えるなど、人知れず努力を重ねてもきたという。
大杉栄やマリリン・モンロー、田中角栄などなど、吃音を抱えて活躍する人は数多い。が、社会生活への不安や恐怖から死の誘惑に駆られる者も少なくなく、本書はそんな1人、高橋啓太氏の物語から幕を開ける。
〈高橋啓太は、物心がついたころから思うように話すことができなかった〉〈「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ……」とどもって話すと、同級生みなが笑った〉〈高橋はそのとき初めて実感した。どもるのは恥ずかしいことなのだ、と〉
吃音には主に「ぼ、ぼ」と同じ音を繰り返す〈連発〉、「ぼーく」と伸ばす〈伸発〉、「……(ぼ)くは」と頭の音が出ない〈難発〉の3つがあり、連発→伸発→難発と症状が進行しがちだという。高橋の症状も年々悪化し、高校も2年で中退。一度は人生を生きる意味を見失いかけた。3歳の娘の父親となった彼と著者が出会うより、18年前のことだ。