相続を巡る係争で多いのは、兄弟の遺産分配協議がまとまった後、親の自筆の「遺言書」が見つかるケースだ。公証役場で作成保管する公正証書遺言と違って、自筆証書遺言は保管場所が決まっていないことが原因だ。遺言の内容次第では、せっかく円満に分割していたのに、かえって遺産争いを招きかねない。
それを防ぐのが2020年7月施行の「法務局における自筆証書遺言保管制度」だ。これは遺言者本人が作成した自筆遺言を所管の法務局に持参して保管申請することで、本人の死亡後、相続人が遺言書の保管を照会し、交付を受けられる制度だ。だが、瑕疵のない遺言書があっても相続争いは起きる。
妻を早くに亡くしたAさんは自宅兼店舗に長男一家と同居して一緒に商売をしてきた。3人の息子たちに残せる金融資産はほとんどなく、次男と三男には申し訳ないが、3階建ての自宅店舗(評価額6000万円)は事業を継いだ長男に全部相続させたい。
遺言書にもその旨をしたためた。しかし、遺言書は“絶対”ではない。相続には「遺留分」があり、遺言で遺産分与がなされなかった相続人にも、「法定相続分の2分の1の遺産」を相続する権利があるからだ。
Aさんの次男と三男は法定相続分の半分、それぞれ1000万円の遺留分を長男に請求できる。他に財産はないため、長男は自宅店舗を兄弟3人の共有名義にして、所有権の6分の1ずつを次男と三男に分与することになる。
そうなると、店舗を改装したり、建て替えなども自由にできない。相続財産が不動産ではなく会社の株の場合も、相続で経営にかかわっていない兄弟に株が分散して混乱を招きかねない。