安く、短時間で、苦痛も少なくがんを治せる──そんな時代がすぐそこまできているのか。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会は2月20日、キメラ抗原受容体発現T細胞療法(通称、CAR-T細胞療法)を使った薬の製造販売を了承した。
CAR-T細胞療法と聞いてピンとくる人は少ないだろう。だが、これにより、がん治療が格段に進歩する“最強の治療法”ともいわれるものなのだ。
「これはもともと体のなかにある免疫細胞『T細胞』の攻撃能力を、人為的に高める治療法です。T細胞はウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃する“兵隊”のような細胞。ところが、がん細胞はもともと自分の細胞が変化したものなので、T細胞が異物だと認識しにくい。そのため、攻撃を免れたがん細胞が成長し、病気が進行してしまいます。
そこで、患者のT細胞にがんに反応する“アンテナ”の仕組みを加えた『CAR-T細胞』を作ります。それを培養して患者の体内に戻し、がん細胞と戦わせるという治療法です」(医療経済ジャーナリストの室井一辰さん)
今回了承されたのはスイスの製薬会社「ノバルティス」が開発したCAR-T細胞療法の治療薬「キムリア」。同社の研究によると、「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」の患者にCAR-T細胞を投与した結果、3か月で81%が寛解したという。すでに同薬はアメリカやヨーロッパでも承認されている。
「現在は審議会を通過しただけですが、厚労省は3月にも正式承認する見通しで、そこから2~3か月で薬価が決まる。早ければ5月にも実用化されます。初めは設備の整った大学病院やがんセンターなどで治療が行われるでしょう」(室井さん)
手術や抗がん剤などによる治療とは違い、治療にかかる期間が短く、体への負担が少ないのも大きなメリットだ。
「患者の血液を採取してCAR-T細胞を作るのに1か月ほどかかりますが、投与は点滴1回です。数日前に白血球などを減らす薬を摂取し、その後CAR-Tの点滴を1日かけて行います。
副作用として発熱や低血圧、神経症状が出る場合があるため、それに備えて入院が必要になりますが数日で済みます。高齢では無理、というような年齢制限もありません」(室井さん)
まさに夢のような治療薬だが、アメリカでは1回の投与の価格が約5200万円に設定されており、誰もが治療を受けられるわけではなかった。