国会や首相官邸で日々取材する政治部記者には、見聞きしても絶対に書けない記事がある。首相や官房長官、与党幹部が番記者にふと漏らした本音は、「夜回りメモ」や「オフ懇メモ」として本社のデスクに報告されるが、決して紙面に載ることはない。しかし、本来そうした話こそが、この国の政治に何が起きているかをありのままに知ることができる生の情報なのだ。
そこで覆面政治部記者座談会を開催し、“核心”に迫ることにした。本誌の呼びかけに、政権に食い込みながらも“冷めた目”で権力を分析するデスククラスのA氏、首相官邸や自民党を長く担当して主流派、反主流派のどちらにも太いパイプがあるベテランB氏、そして夜回り取材の第一線で飛び回る中堅の2人、“安倍肯定派”のC氏、政権に距離を置くD氏という政治部記者4人が匿名を条件に応じた。
司会:今年になって発覚した統計不正問題は2000万人の失業手当や労災保険が過少支給され、かつての「消えた年金」に匹敵すると言われた。進展によっては統一地方選(4月)や参院選に影響が出るのではないか。
記者A:大きな政治問題ではあるが、国会論戦が隘路にはまり込んで国民にわかりにくくなっている。
記者C:ミスリードしているのは朝日、毎日、東京の“見込み取材”が原因ですよ。統計不正をひとことで言えば、厚労省の役人が予算と人員が足りないから毎月勤労統計の取り方をこっそり手抜きしていたという問題。その結果、失業給付などの計算が違っていた。
それを「官邸はアベノミクスで賃金が上がっているように偽装させるために不正を行なわせた」というシナリオで取材している。現場の記者たちは、上司に「安倍(晋三)首相は不正を知っていたはずだ」「菅(義偉)官房長官は知っていたに違いない」という先入観に基づいた取材を指示され、「勘弁してほしい」とこぼしている。