《我々歌舞伎俳優は、歌舞伎という伝統文化を守るために存在しています。ですが、私の中では新しいこともしながら守る、その両輪で進むことで伝統が守られるという発想です》(『AERA』3月4日号)
そう雑誌のインタビューで話すように、市川海老蔵(41才)はさまざまな新しい試みに挑んでいる。その1つが現在、上演されている六本木歌舞伎第三弾『羅生門』。
三味線やツケの音に合わせ、舞台上で勇壮な戦いを見せながら歌舞伎独特のせりふ回しをする。そうかと思えば、一転、現代劇になり“私服姿”の海老蔵が現れ、砕けた口調で観客を笑わす。
共演者もしきたりにこだわらず、2017年の第二弾では女性の寺島しのぶ(46才)が舞台に上がり、今回はV6の三宅健(39才)が、観客から大喝采を浴びている。
「海老蔵さんを筆頭に、2020年の五輪イヤーに向けて歌舞伎界は“伝統文化”を前面に押し出し、世界に“カブキ”をアピールしています。来年は海老蔵さんの、市川團十郎白猿の襲名披露もあるので、歌舞伎界全体が活気づいています」(スポーツ紙記者)
だが、その足元では歌舞伎の存続さえ危うくしかねない事態が進行しているという。
「有名歌舞伎役者の活躍が広がる一方で、“三階さん”といわれる役者たちが続々と辞めているんです。特にここ3年の減り方は、まさに危機的です」(歌舞伎関係者)
歌舞伎には屋号による格付けがある。有名処は海老蔵の成田屋や尾上菊五郎(76才)の音羽屋、松本白鸚(76才)の高麗屋、中村芝翫(53才)の成駒屋など。三階さんとは、それら有名役者と違い役名もなければせりふもない端役で、正式には「名題下」といわれる俳優の一部。昔、控室が大部屋で、舞台からいちばん遠い三階にあったことから、そう呼ばれるようになった。
彼らは主役を引き立たせるために、「とんぼ(宙返り)」を切ったり、高い所から飛び降りたり、役者が乗る馬の脚や犬の鳴き声などを演じる。
「梨園の御曹司や、子役の頃から幹部俳優の家に預けられる部屋子とは待遇がまったく違います。彼らは舞台を下りた後も、修業と称して師匠やその家族のお世話までする。しかも、ハードな割には給料が安く、月収は20万円にも満たないといいます。とんぼを切れば手当てがつきますが、どんなにとんぼを切っても、1か月1万円にしかなりません。とんぼを切りすぎて、体を痛めた役者もいました」(前出・歌舞伎関係者)