貧困、育児放棄、DV──罪のない子供たちの不幸が相次いでいる。政府は1人でも多くの子供を救うために実態調査に乗り出したが、「調査の限界」にぶつかった。「誰も知らない」「誰にも知られていない」ゆえに、安否すらわからない。そんな子供たちが今、日本中にいる。
『万引き家族』(2018年公開)でカンヌ国際映画祭のパルムドールを獲得した是枝裕和監督の代表作『誰も知らない』(2004年公開)。主演を務めた14才の柳楽優弥が、日本人初かつ史上最年少でカンヌの最優秀主演男優賞を獲得し、世界を席巻した問題作だ。
柳楽演じる明と3人の妹弟は、母親と暮らす母子家庭だ。子供はそれぞれ父親が違い、出生届さえ出されておらず、小学校に通ったことがない。いつも狭いアパートの中で、息を殺して生活している。
娘が「学校に行きたい」と言えば、母親は「学校なんて行ってもおもしろくないよ」と取り合わない。
あるとき、母親が恋人をつくって家に帰ってこなくなった。4人の子供は、誰も知らない生活を始める。生活費は底をつき、電気、ガス、水道も止められる。万引きと公園の水で一日一日を生き延びる。
ネグレクト(育児放棄)、貧困、屈託のない笑顔、言い様のない不条理──『誰も知らない』は、実際にあった「巣鴨子供置き去り」という保護責任者遺棄事件に着想を得た作品だった。“世界で最も経済的に豊かな国の1つ”とされる日本において、そんな事件が実際にあったのだ。
《安全確認できぬ子2936人》(朝日新聞)
《安否未確認の子2936人》(読売新聞)
そんな記事が3月1日朝刊で一斉に報じられた。厚労省によると、乳幼児健診を受けていない0~3才児や、幼稚園や保育園に通っていない3~5才児、小中学校に来ていない児童生徒など18才未満の子供を調べると「1万5270人」いた。
その中で、自治体職員が家庭訪問をし、食事を充分に与えられているか、あざはないかなどを目視し、「143人」を虐待の疑いで児童相談所の支援対象にしたという。
「その調査は、昨年3月、東京・目黒区で発生した船戸結愛ちゃん(当時5才)の虐待死事件をきっかけにした緊急対策の1つでした。結愛ちゃんは香川県の児相で一時保護されましたが、転居先の東京都で幼稚園に通っていませんでした」(全国紙社会部記者)
結愛ちゃんのような子を1人でも多く救いたい──そんな調査の中で、もう1つの重大な問題が浮上する。首都圏で調査にかかわった職員が話す。
「家庭訪問で安全の確認をするのは、出生届が出されていて、その自治体に住民票がある子供が対象です。住んでいるはずなのに、地域の幼稚園にも保育園にもいないので、自宅を訪ねてみる。