昨年末から急に騒がしくなってきたキャッシュレス化の動き。火をつけたのは、ソフトバンクとヤフーの両社によって2018年6月に設立されたPayPayだ。競合するLINE Payや楽天ペイ、d払い、Origami Pay、Kyashなども次々にポイント還元などのキャンペーンを行い、まさに乱戦模様になっている。政府も消費税増税を前にキャッシュレス化を推進しているが、その狙いは単に利便性の向上だけではない。神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏がレポートする。
* * *
政府がキャッシュレス化を推進する理由は、大きく分けて3つある。簡単にまとめると、1つは、インバウンド振興のため。次に、流通業者や金融機関での現金取扱業務に関わる費用の削減、そしてキャッシュレス化することによる消費データの共有・利活用などによる新産業の創出だ。
政府は、2018年4月に経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、その中で2025年にはキャッシュレス決済比率の達成目標を40%とした。さらに環境整備を行い、将来的には80%を目指すとしている。2018年8月には同省で「キャッシュレス推進協議会」も始まり、こうした政府のキャッシュレス化への取り組みに歩を一にするように、各社の動きも活発化してきたのだ。
◆狙いは税収確保?
経済産業省が発表した資料によると、各国のキャッシュレス決済比率は2015年段階で40%から60%とすでに高い割合になっている。最も普及しているのは韓国でほぼ90%、中国は60%、カナダ、イギリス、オーストラリアなども50%を超している。
じつはキャッシュレス化を政府が積極的に推進している国は、先進国ばかりではない。むしろ発展途上国の政府が積極的に取り組んでいる。銀行を利用できる人たちが少なく、現金決済率が高いこれらの国々では、収入や収益を政府が捕捉することが難しく、個人所得税はもちろん法人所得税も確定することも難しい。
キャッシュレスにすることで、貧困層から富裕層までの資金の流れを捕捉することで、国家として必要な税収を確保しようということだ。