《4剤以上飲まされている患者は、医学の知識が及ばない危険な状態にある》。これはアメリカの医師が新人ドクターに向けて医師が持つべき心得を書いた『ドクターズルール425 医師の心得集』という本からの抜粋だ。
「アメリカにおいても実際にどの薬を使うかは医師の判断に一任されているうえ、減薬を義務づける法律があるわけではない。しかし、高齢者の多剤併用は社会問題化しており、避けるための動きが活発化しています」
そう語るのは、アメリカ在住の医師・大西睦子さん。複数の薬を服用する多剤併用を避けるための動きの1つが、併用すると悪影響が出る薬をまとめた「ビアーズリスト」という一覧だ。大西さんが解説する。
「アメリカでは1991年、老年病専門医のマーク・ビアーズ博士が、併用すると不適切な薬のリストを作成しました。これを『ビアーズリスト』といい、リストの中には降圧剤や睡眠薬など、高齢者が多剤併用しやすい薬と、その危険性が記されており、たびたび更新されています」
医療大国であるドイツでも単価が高いゆえ、余計な薬はのまない傾向にある。
その一方で、日本では多剤併用が問題化している。どうして、日本だけがこんなにも多くの薬をのみ続けているのか。在宅医療や訪問診療に取り組むたかせクリニック院長の高瀬義昌さんは「日本は国民皆保険で医療費の自己負担額が低いことが大きな理由」と指摘する。
「特に抗不安薬の処方が他の国に比べてダントツに多い。高齢者では転倒やせん妄を発症するリスクも高いのに、いまだに漫然と投与されています」
◆“とりあえず”、“念のため”の弊害
医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さんは「“よかれと思って”が裏目に出た結果」だと言う。
「基本的に医療費は3割負担であるうえ、高齢者になると定額になったり乳幼児は一部自治体で無料になったりするゆえに、医師も“とりあえず”“念のため”の感覚で薬を出しやすい。医師は悪気なくよかれと思ってやっているし、患者も安いからもらえるものはもらっておこう、という気持ちでいる面は大きい」
しかし「とりあえずもらっておこう」とのみ始めた薬が原因で病気になったら目も当てられない。無駄な薬をのまないようにするためには、どうしたらいいのか。