東京・江東区で起きた強盗殺人の容疑者3人が逮捕された。今年になって渋谷区で起きた強盗事件とも関連していると見られており、オレオレ詐欺グループが「アポ電」を利用して強盗も繰り返していたことで防犯への関心が高まっている。昨年、約350億円もの被害を出している特殊詐欺の世界だが、500億円を超えていた時代よりも儲からないからと粗暴になってきたらしい。ライターの森鷹久氏が、共食いの様相もみせ始めているオレオレ詐欺の変質についてレポートする。
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「オレオレ(詐欺)は儲からないですからね。オレオレで使う金持ち、高齢者とかの名簿を使った空き巣や強盗、不動産投資詐欺が拡がりつつある。あとは…オレオレ詐欺関係者同士で“共食い”するパターンもあります」
こう証言するのは、関西地方を拠点に活動してきたあるオレオレ詐欺グループの元幹部(30代)。そして、儲からなくなったことで、詐欺グループのあり方が変わってきたと続ける。
元幹部の後輩が運営するオレオレ詐欺グループでは、受け子や出し子により指示役が騙されたり脅迫されたり、もしくは受け子や出し子が別の詐欺グループの関係者に襲撃されるなどして、詐欺で得た金品が奪われる“事件”が続出しているのだという。それは、グループのメンバーとして新たに集められている人間の質が変化してきたからだ。
「受け子や出し子は、今やネット掲示板やSNSに書き込まれた“高額バイト募集”などの書き込みによって集められます。以前は(電話の)かけ子や詐欺グループに近しい“信頼できる”後輩などの人材にやらせていましたが、あまりにも捕まるリスクが高く、誰もやりたがらない。金に困っていたり、ネットを見て集まってくるような考えの浅い連中なら、高額報酬に目が眩んで簡単にやってくれます。しかし連中は、本当に質が悪い」(元幹部)
かつてのように、地元の先輩や後輩といったような繋がりがもともとある場合は、報酬や仕事内容の不満が理由で、グループが内側から崩壊するようなことは滅多になかった。ところが最近では、いつ部下に裏切られるか警戒するのが普通になっている。これは、彼が知るグループが特殊なわけではない。
詐欺師グループ内部の「仲間割れ」を発端としたトラブルの事件化は、以前から存在はしていた。2004年には当時隆盛を極めた「架空請求詐欺」に関わった男らによる凄惨なリンチ殺人事件が発生した。近年でも、振り込め詐欺に関与した高校生同士による暴行事件が起きた。それぞれ発生した時点では、一部の特殊なグループで起きた出来事だと受け止められていたのが、最近ではそのような経過を辿ることの方が“普通”だと見做す傾向にある。
どのような詐欺案件でも、関わる人間が増え、当局に睨まれれば睨まれるほど、詐欺師グループメンバーの統制が取れなくなる。オレオレ詐欺においても、こうして詐欺の受け子や出し子の“クオリティ”が下がった結果、詐欺の現場で得た金を、持ち逃げしたり、上納金を過少に申告するなどする者が現れだした。受け子や出し子が指示役に対して「警察に話す」「詐欺であることをバラす」と強気に出てきて、自身の報酬を釣り上げるようなパターンもあるという。
彼らの勘違いした強気をくじくため、オレオレ詐欺の世界では、受け子や出し子に保証金や立替金を支払わせるのが当たり前になってきているのだ。