父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の日々を綴る。
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母が要介護になったころ、私はよく声が出なくなった。胸の圧迫感で息が吐けず、吸うのを忘れることも。ストレス、恐るべしである。そんな時、母のデイケア体験で、胸いっぱいに流れ込んだ空気のおいしさに、呼吸の大切さを痛感した。
◆息をするのも忘れていたストレス絶頂期
「母がまたお金がないと騒いでいるんです。今帰宅したら、留守番電話が30件も…」
母が隣県で独居になり認知症が顕著になった2013年ごろ、母のケアマネジャーにSOSの電話をすると、いつも途中で胸が苦しくなって最後まで言葉が続かなかった。
当時、私の娘は高校受験で、私も“受験生の親”を初体験し、家庭内は戦々恐々。母の介護も、別居とはいえ、折々別人のようになる姿に恐怖を覚えた。更年期の不調に加え、あっちもこっちも私には初めての闘いで、ストレスに気づく余裕もなかったのだ。
受診の付き添いなどでも同じことが起きた。クリニックでは母に代わって医師に報告したり質問したりせねばならず、頭の中には言葉がいっぱいだったが、しゃべり出すと、吐く息がすぐになくなって口だけパクパク。
「なぜこんなに苦しいの? 息継ぎせず泳いでいるみたい」
恥ずかしながら水泳の息継ぎができない私は、胸の苦しさの原因にすぐ思い至った。
「あれ? 私、息を吸ってない…。息してないじゃん!」
慌てて息を吸おうとしたが、今までどうやって呼吸していたのか、混乱してせき込んだ。
「大丈夫? 落ち着いてね」と、医師は声を掛けてはくれたが、多くの介護家族もそうなるのか、それ以上の助言はしてくれなかった。
◆天に向かって腕を上げたら あ~ら、不思議!
呼吸をすることさえ忘れるストレスのただ中で、母のデイケアを選ぶため、体験見学に付き添った時のことだ。
見学したデイケアは「レクリエーションより運動」という母の要望で選んだ。体育会系の指導員のハツラツとした対応に安心はしたが、疲れた私には少々重く感じた。