歯科医院に通う患者が向き合わなくてはならない問題は、「間違った治療」だけではない。近年、顕著に増えているのが歯科医院の倒産だ。通っていた歯医者が潰れた時、何が起きるのか。患者はどうすればいいのか──。
「もう治療しないなら、お金を返してください!」
千葉県船橋市にある歯科医院の待合室で、患者たちの怒号が飛び交っていた。その前に立つ無精髭で普段着姿の男が、院長である50代の歯科医だった。
千葉で3軒、沖縄で1軒の歯科医院を経営。日本小児歯科学会の認定医として矯正治療を行ない、インプラント、ホワイトニング、訪問歯科まで幅広く手がけていた。
東京・高輪のプリンスホテルに近い高台に5階建ての自宅を持ち、車は1000万円以上するセダンやオープンカーのベンツ。とにかく羽振りの良さが目立っていたという。
異変が起きたのは、昨年2月。理由も示さずに千葉県内の3歯科医院を休診にして、連絡が取れなくなったのである。患者の中には、矯正治療を受けるために、100万円超の費用を前払いしていた人もいた。
船橋市の歯科医院に集まった患者たちに、歯科医はその翌週、費用を返すと答えたが、約束を果たさぬまま姿を消してしまった。