出張で博多にやって来た多くのサラリーマン(もちろん、角打ちファン)の言葉を借りれば、「JR博多駅まで徒歩5分という立地は文句なしに大きな魅力。でも、それ以上に素敵な魔力をこの店は持っているんですよ」となる。
店の名は『大久保酒店』。大正元年創業で、店主は4代目の森田敬二郎さん(42歳)。当地の夏、最大のイベント博多祇園山笠(7月1日~15日開催)が大好きな博多っ子ということで、気持ちがいつも熱い男なのだが、角打ちに対してもそれに負けない熱量を持っている。
「大久保酒店創業者の一人娘と結婚した祖父(森田治さん)が、しばらくして、角打ち営業を始めたんです。正確な時期は不明ですが、自分が幼稚園の頃、店で飲んでいるお客さんたちがすごく楽しそうだなって思った、その印象が強烈な記憶として残っているんです。私が店を継いだら、絶対に角打ちをやるんだという気持ちは、その頃もう芽生えてたみたいです」。
父親(3代目・晃弘さん)の時代に、角打ちは一度姿を消したが、溢れる熱量を持ち続けたまま32歳で店を継いだ彼が、9年前に復活させたのだ。
「明るいし頼れるし、彼みたいな人を男前っていうんだよな」との常連客評がある、そんな彼を慕って集まる客たちが、これまた熱気を醸し出してくれる。
「屋台で知られる博多ですが、角打ちの店も多いんですよ。東京から転勤してきて、そこは喜びでした。何軒かを飲んで回って、1年前にここにはまりましてね。安く飲めてつまみとして出してくれる料理の種類も多いし、これがめちゃうまい。しかし、それより何より、大将が誰もが惚れちゃうような輝きを持っている人なんですよ。東京の元同僚、こっちの部下、それから取引先の人たちを彼に会わせたくて連れて来るんだけど、みんなすぐに好きになって、昔から通っているような顔で楽しんでますね。初対面の相手なのに、会って2分で連れて来ちゃったこともあります。その人も、もはや常連です」(40代、営業)
「ずいぶん通わせてもらっていますが、もうすぐ定年。できたらそのお祝いをここでやってもらいたいって夢を勝手に持っているんですよ。だって、大将のお陰で充実し数年だったし、いい友人も増えたし。考えればここが私の人生で一番の熱い場所なんですからね」(60代、公務員)