これも深夜ドラマゆえに可能になった自由な表現、ということだろうか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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「もうそんな時代じゃないんだって。ドラマも大手事務所から持ち回りで主演俳優を出して、小さい役も同じ大手事務所の新人で埋める。そういうのは視聴者に見透かされているんだよ。バカにされるんだよ。わかんないの? バカにされたら視聴者もスポンサーも離れていくよ。番組作りにも透明性と競争原理を導入しなきゃ。今あんたが言ったこと、全てが逆行しているんだよ」
誰のセリフだと思われるでしょうか? 今放送中のテレビドラマの中で、大手芸能事務所社長に向かって投げられた言葉だと聞いたらあなたはどんな感想を抱くでしょう?
たとえドラマという絵空事の中とはいえ、このシーンを見た時、私は正直胸がスッとしました。よく言った、と膝を叩きました。そして、架空の大手芸能事務所を、頭の中で現実の事務所の名前に置き換えつつドラマを楽しみました。
このドラマ、今地上波で放送されている『新しい王様』です(TBS・Paravi共同制作)。まず最初にTBSの深夜枠でSeason1が放送され、続けてParavi(動画配信サービス)のネット配信でSeason2が公開されました(全17話)。そして今、地上波TBS(月曜夜1時58分)にてSeason2がオンエア中、という変則的なスタイル。
その中身も従来の連ドラとは一味違った『新しい王様』。物語は……反対の価値観を持つ“二人の王様”が登場します。
一人は「カネの力」や「所有する」ことに違和があり、新しい価値を見つけようとする自由人・アキバ。本心がどこにあるのか分からない複雑さも含め、藤原竜也がまさしくドンピシャのはまり役です。
一方、カネやモノや女へのあくなき欲望をギラギラとストレートに追求する、ファンド会社代表・越中。演じるのはこれまたピタリの香川照之。全く違う価値観を持つ、アキバと越中。その「2人の王様」が、テレビ局の買収にむけて手を組みTOB(株式公開買付)を仕掛け……という展開。
経済ドラマでも業界お仕事系でもなく、そのいずれでもあるような。ぐぐっと引きこまれる、見たことのない不思議なドラマ世界。象徴的なのが冒頭に引用したセリフです。
テレビ局や芸能事務所のもたれあいを痛烈に揶揄するシーンあり、金まみれ世界のばかばかしさを笑い飛ばすシーンあり。クソ真面目な説教調ではなく社会の構造を俯瞰しつつ、時にコミカル、時にシニカル、クリティカルな手法で企業や組織のお粗末さ、ファンドの薄っぺらさ、コキ使われる人間の哀しさを描き出していきます。
少なくともこれまでテレビ局が作るドラマの中において、自身の業界や芸能事務所に対する辛辣な批判や皮肉を、繰り返し語らせたドラマがあったでしょうか?