音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、現代落語の最前線を追いかけるだけでは辿り着けない「寄席の秘境」古今亭寿輔についてお届けする。
* * *
キントトレコードという落語専門レーベルがある。こだわりのレーベルで、リリース数は少ない。立川談志の「家元の軌跡」シリーズの他、2001年に52歳の若さで亡くなった古今亭右朝(この逸材の早逝はあまりにも残念だ)の発掘音源CD2枚組3作品や四代目春風亭柳好「落語B級グルメ」、現役では五街道雲助や瀧川鯉昇のCD等を出している。
そのキントトレコードから、意表を突くマニアックな商品が発売された。古今亭寿輔「トロピカル・ドリーム」(CD2枚組)だ。
古今亭寿輔と聞いて「あの熱帯魚みたいに派手な着物のチョビ髭の噺家ね」と即答できる人は、かなりディープな寄席マニアである。
今年で芸歴51年。出囃子の『シャボン玉』に乗って寿輔が高座に上がると、妖気とも言うべき空気感が寄席を支配する。自虐的な物言いは脱力系とも思えるが、これでもかと客をイジり続ける高座姿勢は極めてアグレッシヴ。寿輔がどんな落語を演ったのかは忘れても、その風体と異様なムードは鮮明に記憶に残る。
そんな落語家の「音源」を商品化するキントトレコードは凄い。
今回の商品に収められているのは寿輔がトリを取った2018年2月下席の浅草演芸ホールでの音源。寿輔の所属する芸協では10日間の興行を前半と後半の5日ずつに分けるが、2月下席は8日間なので分けない。この8高座から『死神』『英会話』『地獄巡り』『龍宮』『文七元結』『代書屋』の6席が収録された。