病院にかかって、治療に不信感を抱いたり、医師にマッチしないものを感じたりすることは少なくない。そうした医者との相性から、「勇気を出して医師や病院を替えてみようか」と思った人もいるだろう。
だが、それにはリスクが伴うことも知っておく必要がある。消化器外科医の山本健人さんが解説する。
「病院を何度も替わると、情報が蓄積されていかず、細かい病状の変化がわからなくなる。『とにかく早く治療の効果を実感したい』と短期間で病院を次々と替える人もいますが、逆効果です」
『医者の本音』(SB新書)の著書がある消化器外科医の中山祐次郎さんは、頻繁に病院を替える患者が続出することは、今の医療制度の崩壊にもつながると警鐘を鳴らす。
「いろいろな店をまわって買い物をすることになぞらえて『ドクターショッピング』と呼ばれ、問題視されています。確かに病院を替えることが必要なケースはあるが、患者さん全員が何度も新しい病院にかかるとそれだけ医療費もかさんでしまうのです」(中山さん)
つまり、現状のような誰もが一律の受診料で受診できる制度が立ちゆかなくなる可能性が出てくるのだ。
「医師との相性の問題であれば、複数の医師が外来診療を行っているような病院であるならば別の曜日に行ってほかの先生に診てもらうのも1つの手です」(山本さん)
この場合、カルテが同じ院内にあるので、スムーズにいくことがほとんどだ。しかし、家事や仕事などで別の曜日に通うことが難しかったり、病院の雰囲気そのものがどうしても受け入れられなかったりすれば、やはり病院を替える必要が出てくる。その際、必須なのが「紹介状」の存在だ。
戸田中央総合病院の心臓血管センターで外科部長を務める医師の横山泰孝さんが重要性を説く。
「紹介状は正式には『診療情報提供書』といいます。もちろん、なくても診てもらえますが、大病院であれば初診料のほか選定療養費といって3000円~1万円程度のお金がかかります。さらに、次に診る医師がそれまでの病状や治療が詳しくわからないというデメリットがあります」
紹介状は封がされており、基本的に患者は中身を見る機会がない。どんなことが書いてあるのか。
「患者さんの名前や生年月日といった個人情報のほか、既往歴や診断名、紹介の目的、これまでの経過などが書かれています。詳しく経過が書き込まれたものもあれば、あっさりしたものもありますが、これは医師の個性の部分。私は次の先生にバトンを託すつもりで、できるだけ詳しく記載するように心がけています」(横山さん・以下同)
医師との関係がこじれて、面と向かって紹介状を書いてもらうよう頼みにくいという場合もあるだろう。