便秘はどの年代にとっても切実な問題。「便通がよくなる」「腸にいい」という情報も巷にあふれている。
しかし年を重ねれば体の状態は変わってくるもの。特に高齢になれば、若い世代の便秘対策が逆効果になることもあると、腸医療の第一人者・松生クリニック院長の松生恒夫さんは警告を鳴らす。若い子供世代が知っておくべき高齢者の腸の不調と有効な対策を聞いた。
◆高齢者の便秘の原因は腸の機能低下や病気も
「私のクリニックの便秘外来で毎日多くの患者さんを診察していると、年齢とともに腸の不調が増えてくることを実感します」と言う松生さん。
厚生労働省による統計でも70才以降に便秘の有訴者率が急増している。
「便秘は多くの人の関心事で、メディアでもたくさんの対策が紹介されていますが、ほとんどは若い世代向けのもの。
高齢になれば自然と全身の機能は低下し、腸の状態も若いころとは違います。同じような便秘の症状でも、元気な若い人と高齢者とでは原因に違いが出てくるのです。
若い人では無理なダイエットなどで体に必要な食事量が足りていないケースが多いのに対し、高齢者の場合は腸自体が衰えて働きが悪くなっているのが主な原因です」
高齢者の腸や便秘にかかわる体の状況を詳しく聞いた。
「加齢による生理的な変化、便を送り出すのに必要な腸管壁の弾力が低下する、便を押し出す腹圧が弱まるなどの身体的要素に加え、食事内容の変化や食事量の減少で食物繊維の摂取量が減る、運動量が減るといった生活上の変化が考えられます。さらには脳血管障害などによる神経機能の低下、うつ症状でも腸の働きが低下します。
高齢者に多い肺気腫や心不全に起因して便を押し出す力が足りない、処方薬の影響で便秘になる、下剤の乱用で排便が困難になるなど、高齢者の便秘はさまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えた方がよいのです」
また、大腸がんの症状として便秘になることも。日本人の大腸がんは増加中で女性の死因では第1位。急に始まった便秘は注意が必要だという。
「高齢者にとって便秘はとてもつらいものです。一日中、排便のことを思い悩んだり下剤に依存したり。あるいは無気力になり、便秘の膨満感を気にして食事量が減ったり。ただでさえ排便がスムーズでない状態に精神的な落ち込みが重なり、負のスパイラルに陥りがちです。
しかし長年の臨床の場で高齢者の生活を見聞きする中で感じるのは、少なからず心身の機能低下があっても、便通があり、それが生活のリズムになっていると、大きな安心感につながるということ。
それだけ高齢者にとって排便が重要な問題であり、腸をよくすることが健康寿命に直結するともいえるでしょう」
※女性セブン2019年4月25日号