就職活動の現場が大揺れだ。就活に必死の女子大学生を標的にした、現役男性社員の性的暴行や不適切な関係が、相次いで報道された。そうした卑劣な行動は言語道断だが、大多数の社員はまじめに働き、まじめにOB・OG訪問を受けていることだろう。しかし、男性社員は以前にも増して注意を払わねば、思わぬ落とし穴にはまりかねない。『学歴フィルター』(小学館)の著書がある、就職コンサルタント・福島直樹氏が解説する。
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今年3月、住友商事元社員が準強制性交などの疑いで警視庁に逮捕された。就活でOB訪問に訪れた女子大学生に酒を飲ませて泥酔させ、ホテルでわいせつな行為をした疑いだった。社員は事件後に懲戒解雇された。
2月には、大手ゼネコンの男性社員が、OB訪問で知り合った就活中の女子大学生を自宅マンションに呼び、わいせつ行為をした疑いで警視庁に逮捕された(後に不起訴)。
大手企業に就職したい学生たちの立場の弱さに漬け込んだのであれば、卑怯な行為であり、断じて許されない。人間として下劣である。
一方で、多くの男性社会人は誠実であり悪意は抱いていないだろう。OB・OG訪問も同じ大学出身の後輩への親切心から受け付け、忙しい業務の合間に時間を割いていると思われる。しかし、今回の報道を受けて、「自分は下心などないから大丈夫だ」と感じた社会人は危ない。私が注意を喚起したいのは、近年、問題が頻発する背景に次のような事情があるからだ。
大手企業は2016年卒業予定の大学生向け新卒採用から求人数を減らしており、大手に関しては実は就職が厳しくなっている。リクルートワークス研究所の調査では、社員数5000人以上の企業の有効求人倍率はこの数年で、0.70倍(2016年卒業)から0.37倍(2019年卒業)へと半減しているのだ。
ゆえに「OB・OGを訪問して直接アドバイスがほしい」「リクルーターから優先的に人事に紹介してもらいたい」という学生側のニーズが高まり、リクルーターは当の本人が感じている以上に「強い」立場にある。これまで以上に、学生は社員側の要求を断りにくくなっている。
かつてはOB訪問の際に、社員が学生に夕飯をご馳走してあげることもあっただろう。だが、いまやお酒が出るお店に連れて行けば、「無理矢理デートに付き合わされた」と言われても仕方のない時代だ。「これまでは許されていた」とか、「学生側の同意があった」などという抗弁はまったく通用しない。
就活中の女子大学生たちは、就職できるかどうかで心理的に追い詰められているケースも少なくない。彼女たちの立場は非常に弱く、そのことに思いが至らなければ、社会人側のミスである。