【著者に訊け】川上和人氏『鳥肉以上、鳥学未満。HUMAN CHICKEN INTERFACE』/1500円+税/岩波書店
『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』や『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』等、数々の話題作をもつ森林総合研究所主任研究員・川上和人氏が、今度は鶏を語り倒すという。
題して『鳥肉以上、鳥学未満。』。例えば食肉としていかにそれが優秀かを語るにも、各肉の値段や売場の占有率を徹底調査し、〈鳥肉の1円あたりのおいしさを「1トリ」として計算すると、豚肉と牛肉のおいしさは、それぞれ約0.77トリと0.7トリ〉と、一々数値化するのが川上流だ。
「別に冗談でも何でもなく、どんな現象も単位や数字に直して検証するのが、僕ら科学者の基本なんです」
現に牛肉や豚肉と違って鶏肉は肉店で一羽丸ごと手に入り、味や食感を肌身に知っている点では、研究の取り組みやすさで昆虫や爬虫類の上を行く。そんな〈鳥類学の教科書〉を漫然と食べていては勿体ないとばかりに、川上氏は〈モスチキン〉や〈世界の山ちゃん〉の手羽先を標本レベルまでしゃぶりつくし、その骨格や鳥類の鳥類たる所以について思索を深めるのだった。
「僕は鳥について考えることが好きなだけで、鳥が特に好きというわけではないんです。僕が小笠原で今やっている仕事は、鳥類が生態系の中でどんな役割を担い、いなくなるとどんな影響が出るかという研究と、絶滅しないように管理する仕事の主に2つ。解剖学者は個体以下、僕ら生態学者は個体以上を扱うと言えばわかりやすいでしょうか。
生物学の面白さは一般性と特殊性に集約されること。どんな生物にも当てはまる普遍的なセオリーもあれば、なぜこの生物だけがこんな行動をするのかという特殊性を発見する場合もある。その2つが混在する世界の面白さを、僕は皆さんにも面白いと思ってほしいので、宗教も地域もさほど関係なく大勢が食べている鶏肉は、格好の題材だったんです」