現在、公的年金の受給開始年齢は原則65才。しかし、政府は今、少子高齢化による年金財政の逼迫を理由に、受給開始年齢を70才に引き上げることを検討している。また、厚労省は段階的に年金受給額を減らす計画で、このままいけば、25年後には現在の実質2割減になるとの試算もある。
東京都在住の主婦、山口恵子さん(仮名・42才)はため息を漏らす。
「受給開始年齢を引き上げたとして、そもそも夫(48才)の勤め先の定年は70才に延長されるのでしょうか。年金額が減らされ、そのうえ受給開始も遅らされたら、負担が大きくなるだけ。実際に保険料を払って、年金を受け取る国民のことを本当に考えているのか疑問です。
それに、仮に70才まで会社で働けたとしても、夫は体が強い方ではありません。体に鞭打って働いたとして、やっと年金を受け取り始めた頃に床に伏すことになったら、納得いきません」
自立した生活を送れる期間である「健康寿命」は現在、男性が72才、女性は74才だ。
また、現在の年金給付水準でも生活費が足りず、「老後破産」に追い込まれる人が多いのに、仮に年金が2割減らされれば、多くの人の生活が困窮するのは目に見えている。
老後を安心して迎えるためには、公的年金はもはやあてにできない。「自分の身は自分で守る」しかないのだ。“年金博士”として知られるブレインコンサルティングオフィスの北村庄吾さん(社会保険労務士)が話す。
「年金には、国民年金や厚生年金などの『公的年金』と、勤め先の会社や民間の金融機関、保険商品を活用して自分で計画的に老後資金を用意する『私的年金』があります。後者は、いわゆる“じぶん年金”と呼ばれ、将来の年金の目減りに備えて、多くの人が利用しています」
一日でも早く、「じぶん年金」作りに取り掛かることが大切だ。
「じぶん年金」にずばり当てはまるのが、「イデコ(iDeCo、個人型確定拠出年金)」だ。毎月一定額を「掛け金」として金融機関に預け、投資信託などの商品を運用する。長期の運用を前提とし、一度積み立て始めると60才まで引き出せない。
20才から60才まで加入でき、2017年1月からは専業主婦も加入できるようになったことで人気になり、加入者は今年に入って100万人を突破した。ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんが話す。
「イデコは、老後の不足資金を自分で準備してもらうために国が肝入りで用意した制度。だからこそ、一般の金融商品にはない、さまざまな優遇措置があるんです」
優遇制度は3つ。1つ目は掛け金が全額、所得控除の対象になること。2つ目は、運用益が非課税になること。3つ目は、イデコを年金として受け取る際にも税金の控除を受けられることだ。
1つ目の優遇措置について、山中さんが話す。