音楽や映画、ドラマやアニメなどの日本の大衆文化が禁止されていた1990年代初めの韓国で、大流行した日本のロックバンドの歌があるという。『韓国「反日フェイク」の病理学』の著者、韓国人ノンフィクション・ライターの崔碩栄氏が明かす。
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1990年前後、韓国のソウルを訪れたことのある日本人であれば、次に紹介する風景を覚えているかもしれない。当時、明洞、鍾路、大学路、江南などに代表されるソウルの繁華街にはリヤカーにカセットテープを山積みにして販売する露店が多く見られた。当時の韓国はまだCDがそれほど普及しておらず、カセットテープが依然として音楽を聴くための最も一般的な方法だった。
道端で売られている不法コピー、いわゆる海賊版であるが、韓国の楽曲はもちろん洋楽や日本の音楽まで、人気がある歌、売れる歌であればジャンルや時代を問わず、なんでも売っていた。彼らはカセットテープを売りながら、ラジカセやスピーカーを使い一日中音楽を流していた。彼らが流していた音楽は、その時々で最も人気のあった(売れていた)音楽だ。人気がある音楽を流せば、それを目当てに客が集まってくるからだ。
その選曲はラジオやテレビ、あるいはレコードショップのチャートとは異なっていた。ラジオやテレビのチャートよりもはるかに早く反応していたのが、そして、市中のニーズに最も早く、そして正確に反応していたのが彼ら露天商であり、それが反映されたのがそこから流れてくる音楽だったのだ。
彼らの流す音楽は「ギルボード・チャート」(米国の有名な音楽チャート「ビルボード・チャート」に韓国語の「ギル=道」という言葉を掛けてつくられた造語)とマスコミに紹介されるほど注目を集めていたのだが、1990年代のギルボード・チャートに数え切れないほど登場し、まさに一世を風靡した歌がある。X JAPANの「ENDLESS RAIN」である。
1990年前後、露天商たちはこの曲を何度も何度もリピートし、一日中聞かせていた。街を歩けば常に聴こえてくるような状態だったものだったから、歌詞は知らなくてもメロディーだけは自然に記憶していた人は少なくないはずだ。正直言って「うんざりするほど」流れていた。バスに乗ろうと、バス停の前でほんの10分立っていたとしても2、3回は聴くことになった。
あの時、露天商たちはなぜ、あそこまでしつこく、この曲を流し続けていたのだろう?