価値観の多様化の弊害なのか、近頃困った大人が増殖していると感じる人は決して少なくないだろう。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
* * *
今の日本に「経済大国」という形容詞がふさわしいと思っている人は、そう多くはないでしょう。たいへん残念ではありますが、ふさわしいのは「差別大国」という形容詞です。
「貧すれば鈍する」なのか、ネットやSNSによって差別意識が見えやすくなったからなのか、その両方なのか……。ニュースを見たり酒場で別のグループの会話を漏れ聞いたりすると、差別はよくない、差別は恥ずかしいという当たり前の気持ちが、世の中からどんどん薄れているように見えます。
先日、都内の日本語学校に留学している18歳の中国人の女性が、アルバイト先のスーパーでいきなりひどい言葉を投げかけられたという記事が話題になりました。BuzzFeed Newsによると、レジ係をしていた女性は、酔った60代ぐらいの日本人男性客が支払い時に小銭を落としたのを見て、手助けしようとしたところ、いきなり「中国人だからそういうことをするんだ。人の金を取るんだ」と怒声を浴びせられたそうです。
ショックを受け、恐怖を感じた女性は、とにかく謝り続けたものの、男性はどんどん差別的な発言をしてきました。やがて店長がやってきましたが、客は「金をとられた」と主張し、自分で警察を呼びます。やってきた警察官が署に同行を求めたのが、女性ではなくその日本人男性だったのは、このひどい話の中でのせめてもの救いです。
この酔っ払いのおっさんが最低なのは、言うまでもありません。ただ、そういうダメなおっさんがいたというだけで止まらないのが、今の日本の情けなさ。このニュースが掲載されたYahoo!ニュースのコメント欄には、差別意識丸出しの意見があふれました。
「中国人の素行のイメージは、悪い。それは、過去何十年かにわたる来日して悪業を働いた同胞を恨んでください。身から出た錆ってとこですか」
「そこかしこでドン引きするレベルのことを平然と悪びれもせずにやってくるから無理すぎるわ」
「日本だから起きた話なのか、他国では全く無い話なのか」
悲しい目に遭ったアルバイト女性に同情する声は、ほとんどありません。申し訳程度に「その女性はまともかもしれないけど」と前置きをつけて、要は「でも、中国人なんだかしょうがない」と言って差別を正当化する人の多いこと多いこと。「酔っぱらいに怒鳴られたぐらいでいちいちショックを受けるな」と、この女性を責める人まで……。
書いている本人には恥も自覚もなく、「俺、いいこと言った」という得意気な気配すら漂っています。ただ、自分がもし同じ立場だったらという簡単な想像力すら持てない人に腹を立てても、虚しいだけでとくに実りはありません。ここはせめて、わかりやすい形で「反面教師」や「他山の石」になってくれることに、強引に感謝することにしましょう。
社会における差別もなくなってほしいところですが、自分の身の回りから差別を遠ざけることも大切。この手の「差別おじさん」は、どこにでもいます。そして、気が付かないうちに増殖しています。もちろんそういう人は、外国人差別だけでなく、女性差別などほかの差別にも余念がありません。
うっかり巻き込まれて、うっかり感化されたら、一生の不覚であり末代までの恥。身近な人が「差別おじさん」に属するかどうか、たとえばこの手の事件に対する何気ない一言で早めに察知しましょう。ネットにあふれている差別的な言い種を参考に、5つの「危険フレーズ」を選んでみました。同じように「差別おばさん」も察知できます。