今年のゴールデンウィーク映画は『名探偵コナン 紺青の拳』(4月12日公開)や米国映画の『名探偵ピカチュウ』(5月3日公開)など、話題作が目白押しだ。そんな中、若手人気俳優の山崎賢人、吉沢亮らが出演し、大作として呼び声の高い『キングダム』が4月19日に封切られた。近著に古代中国を描いた『春秋戦国の英傑たち』がある歴史作家の島崎晋氏が、映画『キングダム』では決して描かれない“ざんねんな史実”を紹介する。
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累計発行部数が3800万部を数える人気漫画『キングダム』の実写映画がついに封切りとなった。原作者の原泰久も制作に関わったことから、本来の内容から大きく逸脱することなく、原作のファンも安心して楽しめる作品に仕上がっている。
原作を読んでいない方もいるだろうから改めて説明すると、作品の舞台は紀元前3世紀の中国。有名な「三国志」の時代より450年以上前である。春秋戦国時代という群雄割拠の真っただ中、後に始皇帝となる秦国の若き王・エイ政(えいせい)が信(しん)という同年配の奴隷出身者とともに、史上初めての中華統一を目指すというのが物語の大筋で、今回映画化されたのは異母弟の反乱で王宮を追われたエイ政が、信や山界の王らの力を借りて王宮の奪回を果たすまでの話である。映画では吉沢亮がエイ政、本郷奏多が王弟を演じている。
『キングダム』の真の主人公は信という奴隷出身者のほうで、映画では若手人気俳優の山崎賢人が務め、言動こそ粗野だが武人として天性の資質を持つ役どころをみごと演じている。そしてこの人物は李信という実在の将軍をモデルにしている。
作中の信は一兵卒に始まり、100人の兵卒を率いる百人将であったとき、将軍の王騎からその隊に「飛信隊」の名を与えられ、以降も順調に軍功を重ねることで将軍への道を歩んでいくのだが、このあたりの事情は原作者による完全な創作で、一級史料である司馬遷の『史記』や劉向(りゅうきょう)の『戦国策』(どちらも前漢時代のもの)には李信の前半生について一切語られていない。