人材募集をかけたとき、人気企業や職種なら優秀な人材を集めやすいが、不人気分野や企業では、それなりの人がやってくる。業務や成果物の質を保つには、仕事のすすめかたなどを変えて品質を維持する工夫を凝らす。そんな工夫が「詐欺」の分野でもすすんでいるという。SNSや掲示板で募集した人材が最近は増えているため劣化している、と言われるオレオレ詐欺グループが劣化した人材でも詐欺が続けられている背景について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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筆者はこれまで、いわゆるオレオレ詐欺など、特殊詐欺に関わる人々について取材してきた。
最近、強く感じているのは、かつては極めて閉鎖的、そして組織的に行われてきた詐欺が、今ではネットの書き込みなど誰でも接触できる場所から“働く人”を取り込んでいることだ。そこには、中高生などの子供も含まれている。その結果、詐欺に関わる人材が「劣化」を起こしている。
2019年2月に江東区で発生した「アポ電」強盗殺人事件では、犯行に関わったうちの一人が、ツイッターを通じて「犯行」のアルバイトに加担していた事実も判明した。被疑者三人は詐欺などの仕事をしては飲み歩き、散財し、暴力団関係者との接点もあったとみられる。そして、ついに「ここまで劣化したか」と思わせる事件が起きた。
「いわゆるオレオレ詐欺で逮捕された少年が、池袋のキャッチから勧誘され受け子役をやったと供述したのです。このキャッチの男ものちに逮捕されました。受け子や出し子が、これほどまでに雑な方法で集められていることに驚くしかありません」
警視庁の捜査関係者がこう話すように、池袋の繁華街を歩いていた時にキャッチされ、特殊詐欺の受け子のバイトをやるなどという、数年前ならあり得ないきっかけで詐欺グループに加わるメンバーが存在している。犯罪グループに加わるよう誘うのだから、本来はもっと慎重に人を集めていた。なぜ、繁華街でスカウトという、雑な方法をとるようになったのか。
以前に比べて近年は、特殊詐欺に関わると検挙されやすく、また法整備とともに厳罰化がすすみ逮捕されると重罪になり、長い懲役などが待っている。そのため、もっとも逮捕されるリスクが高い受け子や出し子のなり手は不足しがちだ。そうした背景からか、これら末端要員はSNSや、ついには路上での“キャッチ”によって頭数を揃えるしか無くなってきているらしい。だが、やむなく雑な方法をとっているわけではないという、別の見方も出てきた。
関西地方に拠点を置く指定暴力団関係者で、以前特殊詐欺に関わっていたという男性が次のように解説する。
「確かに(末端要員などの)タマ不足は否めない。捕まって暴力団関係者だとみなされれば、使用者責任で親(組長、幹部)までパクられる。事実、とある広域指定暴力団では、手下に特殊詐欺をさせるな、組織が危なくなるなどと通達まで出しているんです。以前は半グレなど、組員に近しい人間や、半グレの仲間が受け出し(※受け子と出し子)をしていましたが、リスクが高く、誰もやりたがらない。こうした今まで末端だった連中が、さらに下請けの出し子や受け子を作るべく、いい加減な人集めをしたことで “劣化”が進んだという側面は確かにある。でも、一部の連中は、これが極めてクレバーな方法とも見ている。従来より安く使えて足がつかない、完璧な方法かもしれないと」(暴力団関係者)
極めてクレバーな方法とは、どういうことか?