習近平国家主席による綱紀粛正路線によって中国は大きく変貌しているとも伝えられるが、実態はいたちごっこであるとも言えそうである。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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掃黒除悪──。この言葉にすぐにもピンと来たなら、かなりの中国通だ。実はこれ、昨年末から中国共産党中央が力を入れてきたマフィア(ギャング)の撲滅キャンペーンで使われるスローガンなのだ。
えっ? 中国って監視カメラ天国で、なおかつ言論統制が厳しく人々の行動はガラス張り、その上、人権を無視した取り締まりが横行しているんじゃないの。そんな国で、ギャング? なんて反応をしてしまうようであれば、あなたは重度の日本メディア汚染患者だ。そんな国でも、まだ制御しきれないというのが中国の人々なのである。
というわけで、いま、中国政府がマフィア退治に躍起になるのはなぜか。誤解を恐れずに言えば、要するに地方の一部はいまやで共産党権力が通用しないエリアが拡大しつつあるとの危機感が当局に芽生えているからである。
そんなわけで「掃黒除悪」のスローガンの下、例によって強烈なマフィア取り締まりが行われ、次々に権力と結びついた地下組織の摘発が進んでいるのだが、そうした事件が公にされるにつけ明らかになったのが、中国の地方はいまや、まるで毛細血管が切れるように共産党の指導が届かないエリアが拡大しているという実態だった。
そうした地方を共産党に代わって支配しているのが地場の権力だ。誤解のないように言っておけば、これは共産党の村、県レベルの幹部が裏でマフィアと結びつき、上からの政策を捻じ曲げて独自の支配をしているというのが実態だ。そんな組織を取り締まる場合には、当然のこと地元の警察など完全に頼りにできない。
そしてキャンペーンがスタートして半年、『人民日報』が掲載した記事のタイトルが〈銃で殺人の罪を犯した男がたった3年で出所できた問題の背後には、警察・検察・裁判所に潜んでいた8人の内なる“鬼”の存在があった〉である。
記事の内容は、タイトルのそのままである。殺人犯がマフィアのメンバーで、彼らの組織の影響力が警察・検察・裁判所のなかにまで及び、実際に便宜がはかられていたという話だ。
湖北省河口での出来事だが、この地域特有の問題と考えるのは当然のこと間違いである。