プロ野球と反社会勢力との繋がりというと、1969年から1971年にかけて発覚した「黒い霧事件」のように、野球賭博に絡んだものが思い出される。しかし、実際には賭博よりももっと、簡単にプロ野球選手とヤクザとの距離が縮まってしまうものがある。ヤクザ事情に詳しいノンフィクション作家の溝口敦氏と、フリーライターの鈴木智彦氏が、プロ野球選手とヤクザとの接点について語り合った。
溝口:野球賭博については、だいぶデタラメな報道が多いですね。プロのハンデ師がいるとか言うけど、そんな大規模なハンデ表なんていまどき作れるわけがない。昔、山口組系の竹中組は野球賭博をシノギにしていましたが、ハンデ表を作っていたのは竹中正久・山口組四代目の姐さんのきよみさんでした。
鈴木:そうだったんですか。
溝口:彼女は野球には詳しくはないけど勝負勘がいいから、その日のスポーツ紙にばーっと目を通してハンデを付ける。一方だけに賭けられると胴元のヤクザの身が持たないから、賭け方を平均化するためにハンデを付けるわけでしょう。それがきよみさんはうまかったらしい。よく「プロのハンデ師は選手がその日の朝に何食べたかまで知っている」とか言うけど、そんなのは嘘っぱちです。
鈴木:2015年に巨人の選手が野球賭博をやっていたとして問題になった事件では、山口組系関係者が逮捕されましたが、今や野球賭博を専業にして儲けている組織はありません。ただ、野球賭博がヤクザのシノギであることには変わりはない。俺の知っているヤクザは春と夏の甲子園だけ野球賭博をやるらしいけど、それは儲けるというより、「俺がヤクザだ」と周囲に知らしめるためにやるんだと言っていました。