音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、通常、前半と後半に分けて演じられることが多い長編『双蝶々』を独演会で通して演じた立川談春についてお届けする。
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立川談春が紀伊國屋サザンシアターで3月18日から23日まで6日連続の独演会をやった。ネタ出しは『双蝶々』。僕は19日に行った。三遊亭圓朝作と言われる『双蝶々』は前半の「小雀長吉」、後半の「雪の子別れ」と分けて演じられることが多い長編で、談春も当然「上・下」構成で演ると思っていたが、さにあらず。会の前半に正味1時間10分で『双蝶々』を通しで演じたのである。
棒手振りの八百屋長兵衛の倅、長吉は幼少期から悪知恵が働き、盗み癖がある。優しい継母おみつに長吉が悪態をつき、酔って帰った長兵衛に「虐待された」と嘘をついておみつを殴らせる場面を描くのが普通だが、談春はそれを割愛し、酔いから醒めた長兵衛に大家が騒動の顛末を語って聞かせる場面から始めた。
大家の勧めで奉公に出された長吉は窃盗常習犯となり、犯行を目撃した番頭の権九郎が長吉を強請って旦那の金百両を盗ませる。長吉は居合わせた小僧の定吉を絞め殺し、六郷屋敷前で待ち合わせた権九郎も殺して奥州へ逐電。権九郎殺しは本来芝居がかりになる場面で、僕は隅田川馬石が2月に池袋演芸場でそれを演るのを観たが、談春は権九郎殺しを地でサラッと語って後半へ。
長兵衛が寝込んで3年。おみつは夜になると亭主に内緒で物乞いをする日々。ここで談春は六代目圓生の「金が欲しいなら女郎代わりになれ」とおみつに迫る田舎者は登場させず、八代目正蔵と同様、すぐに長吉がおみつと偶然の再会を果たす。