【書評】『ピーポー&メー』戸川純・著/Pヴァイン/2300円+税
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
戸川純をテレビで初めて見たのは、ドラマ『刑事ヨロシク』(一九八二年)だった。TBS退社後に、久世光彦が手がけたドラマだ。スラップスティックを得意とする久世ならではの作品だが、何から何までとてつもなくヘンなドラマだった。毎週、腹を抱えて見入ったものだが、中でもお茶くみ係役の、ひたすら暗い表情の戸川純にいっぺんで引き付けられた。
東京の女の子だ! というのが私の第一印象だ。芝居やライブ、書店や美術館にもひとりで出かけるような子。八〇年代初頭の東京は、まだアングラの雰囲気が残りつつも、新しい多彩な表現が生まれていた。そんなムーヴメントを牽引するのは渋谷パルコだったが、渋谷には闇市時代からの古着屋などもあって、そういう私の街の記憶と戸川純の登場が重なる。
『刑事ヨロシク』のあと、彼女をテレビでよく見るようになった。クリエイターたちを集めた番組で司会をしていた戸川純は、尊敬語・丁寧語・謙譲語の使い方が実に正確だったので、さらに好きになった。シンガーとして、ゲルニカやヤプーズなどのバンドや、ソロでの活躍もよく知られるが、彼女の作詞は、上質な文学だ。