「慰安婦問題」といえば、日本と韓国の間で対立する問題と思いがちだ。しかし、『韓国「反日フェイク」の病理学』を上梓した韓国人ノンフィクション・ライター崔碩栄氏によると、韓国国内においても慰安婦問題をめぐる論争が存在し、そこには“触れてはいけない”タブーがあるという。
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慰安婦問題について語ろうと思った時、韓国人であれば誰もがいったんは躊躇し、萎縮するだろう。なぜならば、韓国社会が記憶し、韓国人が認める「通説」の枠から1ミリでも外れた主張を展開することには相当なリスクが伴うからだ。
慰安婦に対する通説の否定は許されるものではなく、懐疑的な意見を述べたり、新しい解釈を試みるだけでも、社会的な攻撃の対象となり、あるいは魔女狩りのターゲットにされかねない。学者であれ、ジャーナリストであれ、この問題に触れるときは相当なプレッシャーから逃れることはできないだろう。
韓国で語られている通説は、次のようなものだ。
〈日帝は1930年代初頭にはすでに軍の慰安所を設置し、我が国の女性たちを徴発し、戦争末期には組織的に多くの女性たちを徴発し日本軍「慰安婦」として利用した〉(『高等学校韓国史』教学社 2013年)
〈一部の女性たちは日本軍慰安婦として連行されるという苦痛を経験した。日本軍は満州侵略当時から軍慰安所を運営してきたが、戦争末期にはこれをさらに組織化し、朝鮮を含む中国、東南アジアなどの地で、女性たちを集団で強制連行し、性奴隷として扱ったのだ〉(『高等学校韓国史』天才教育 2012年)
法律に次のように定義されている点を見ても、このような一般的な認識が韓国人にとって確信と化していることがわかる(この法律は1993年制定。この定義は2002年に追加されたもの)。
〈日本軍慰安婦被害者とは日帝により強制的に動員され性的虐待を受け、慰安婦としての生活を強要された被害者を指す〉(日帝下日本軍慰安婦被害者に対する生活安定支援及び記念事業等に関する法 第2条)
実際、戦時中の新聞や記録を見ていくと慰安婦の募集経路や待遇は一様ではなかったことがわかるが、現在韓国に広がっている通説は、強制連行、奴隷のような生活といった「被害性」にのみ焦点が当てられている。そして、これを否定することはもちろんのこと、これを疑ったり、他のパターンに目を向けることすらもタブー視されているのである。