インターネットで「個人間融資」と検索すると、100万件以上のページが検索結果として表示される。SNSでも同様で、「#個人間融資」「#即日融資」「#お金借りたい」といったハッシュタグで、借りたい人と貸す人の情報交換がさかんに行われている。しかし、これら個人間融資が、振り込め詐欺の実働要員になる入り口として機能している現実がある。ライターの森鷹久氏が、振り込め詐欺と個人間融資との関係についてレポートする。
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日本から遠く離れたタイ中部の都市・パタヤで、日本への「振込め詐欺」を行なっていたとして逮捕された日本人15人について、警視庁が詐欺容疑で捜査する意向を固めた。大手紙警視庁担当記者によれば、15人の身柄は近く日本に移送され、本格的な取り調べが行われる予定だという。
「マジで迷惑ですって…。俺なんも知らんすもん。Xとは数年前に会ったきり。遊びがえらい好きやったみたいで、借金も何百万…いや一千万くらいあったかもしれんすけど。気の小さいやつで、とても詐欺ばする度胸はなかでしょう。Xの知人やけんて、俺も疑われとるんですか?」
逮捕された15人のうちの一人、福岡県出身の男・X(二十代)の知人が、筆者の取材に狼狽しながら声を潜める。近年、中国や東南アジアに拠点を置き、日本国内向けに振り込め詐欺電話を行うなどの特殊詐欺事件が相次いで露呈している。特殊詐欺事情について明るい暴力団関係者は「日本当局の捜査が及ばない、もしくは現地当局に金を渡せば何とでもなる国にアジトを置けば挙げられ(検挙され)にくい」と話す。
今回の事件の“特質性”をあげるとするなら、15人中11人の本籍が九州地方に固まっていたこと。そして、そのうちの複数の人物が福岡県福岡市やその周辺で事業をするなどして生活していたことだ。中には、筆者と同じ佐賀の片田舎出身で福岡市に住む男(二十代)もいた。福岡市中心部のナイトクラブでDJとして活動しており、筆者の旧知のクラブ関係者などに問い合わせてみたが、連中と詐欺、それも海外から日本に電話をかけるという組織的な犯行とのつながりは一向に見えてこない。
別の逮捕者の知人男性も「(逮捕された男が)東南アジアで仕事をしていることは知っていたが、飲食店だと言っていた」と首をかしげるばかり。
一方で、連中が詐欺に身を堕とした“接点”は、全く別のところに端緒を見出せた。九州北部に拠点を置く広域指定暴力団に出入りをする、いわゆる「半グレ」と称される男性(30代)によれば、SNS上などで密かに流行っている“個人間融資”を通じて、出し子や受け子など、特殊詐欺の末端要員たちがいとも簡単に集められ、海外に送り込まれているという。