ライフ

認知症女性、家から駅までの一本道を通るたびに「初めて?」

道が覚えられない認知症母を支えるランドマークとは?(写真/アフロ)

 父の急死によって認知症の母(84才)を支える立場となった『女性セブン』のN記者(55才)が、介護の日々を綴る。

 * * *
 母は認知症が少し進んでから今の街に引っ越したせいか、まったく道が覚えられない。家から駅までの一本道も、歩くたび「初めて来た」と言う。でもその途中に一か所だけ、母の記憶に深く刻まれた場所があり、必ず立ち止まるのだ。

 母の住むサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)から最寄りの駅まではほぼ一本道。電車で都心に出かけるときも駅前のかかりつけ医に行くときも、いつも同じ道を歩く。

 駅までゆっくり歩いて15分くらい。5年前に転居した当初は母の物盗られ妄想や暴言がまだひどく、通院でこの道を歩くときもお互い無口で、やたらに遠い気がしたものだ。

 でも実はとてもよい散歩道なのだ。横断歩道を渡ると中学校。桜の古木と美しい花壇、その向こうに校庭を走り回る元気な子供たちの声が響く。

 その先には、ウインドーにおいしそうな総菜を並べるカフェや「まながつおの季節到来!」などと貼り紙が目を楽しませる居酒屋が軒を連ねる。朝は近隣の保育園の園児の行列が横切ったりもする。

 さらに行くとお巡りさんが立つ交番。自治体が行っている高齢者見守り施策で、母の登録を届け出たのもこの交番だから、親しみがある。

 そしてその先にはにぎやかな駅前商店街。スーパー、飲食店、銀行、区民会館もあり、あらゆる年代の人が行き交う。

 車も通るし、人をよけながら歩く箇所も多いが、もともと賑やかな東京の下町に育った母には、この喧噪が心地よいのだろう。

「ブラウスが50円だって! 買いたくなっちゃう」などと、商店街の古着店に吸い寄せられたりしながら、母は次第に生活者らしい元気を取り戻していった気がする。今は妄想や暴言もすっかり落ち着いた。

 とはいえ「やっぱり認知症が進んではいるなあ」と思うこともある。歩くたびにいろいろな発見をし、その時々を楽しんでいるように見えるが、記憶に残らないらしい。

 毎回、「賑やかでいい街ね。でもここ、初めて来た?」と必ず聞くのだ。

 私は5年来、母とこの道を歩いて風景が心に刻まれ、自分の中の“お気に入り”になっている。季節の花が咲き、いつもの総菜が今日もウインドーにあるとホッとする。そんなささやかな喜びが母にはないのだと、改めて気づく。

◆暗闇に一光の道標なのか? 母の心に刻まれた店を発見

 そんな母の頭の中で、なぜか記憶に引っ掛かって留まっている場所がある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン