暴力団対策法が施行される以前は、政治家とヤクザの距離が分かりやすく近かった。いけないと知りながら、なぜ政治家はヤクザに頼ってしまうのか。ノンフィクション作家の溝口敦氏とフリーライターの鈴木智彦氏が、政治家はどんな場面でヤクザを頼ってしまうのかについて語り合った。(文中一部敬称略)
鈴木:政治家が困ったときのトラブル処理もヤクザの仕事です。もっとも有名なのが、1987年に起きた「皇民党事件」ですよね。
溝口:当時の首相・中曽根康弘の後継候補だった竹下登に対し、日本皇民党という右翼団体が、「日本一金儲けの上手い竹下さんを総理にしましょう」といった“ほめ殺し”の街宣活動を行なった。結局、竹下は金丸信とともに稲川会の石井隆匡・会長を頼ってトラブルを収拾しました。
鈴木:ほぼすべての暴力団が傘下に街宣右翼を抱えています。だから、街宣を抑えるにはその上の暴力団を使う必要がある。あるヤクザが言っていたのは、嫌なことがあったら政治家の家の近くに行って右翼に街宣をかけさせてガーッと怒鳴る。すると、最初は10万円持ってくる。スピーカーのボリュームを1から2にすると100万円になる。10にすると1000万円になる、金なんて街宣のボリューム一つなんだ、と。それぐらい、街宣は政治家が嫌がることなんですよね。皇民党事件の場合は、暴力団を使ってそれを抑えるのに時間がかかりすぎて、問題が大きくなってしまった。
溝口:当時、中曽根が竹下に「右翼の街宣一つ抑えられないなら後継には推せない」と言ったのはそのことでしょう。
鈴木:今は変わってしまったけど、かつて政治家とヤクザは地元にとって表裏一体の関係でした。国会議員と言ったって、政治家も国の予算を地元にぶんどってくるという意味では“土着の仕事”です。
同じ地元の縄張りを、表で仕切ってるのが政治家、裏で仕切ってるのが暴力団。それに、口利きしてバックを取るというやり方が、政治家と暴力団は全く一緒ですよね。