ばぁばこと、94才の現役料理研究家・鈴木登紀子さん。サラリーマンだった夫には、毎日お弁当を作って、渡していたという。当時のお弁当の思い出を、笑顔とともに振り返っていただいた。
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パパ(夫・清佐さん。故人)はかためのご飯をふんわりとにぎった、私のおむすびが大好きな人でした。
戦後の高度成長期、パパは働き盛りのサラリーマン。当時は土曜日も出勤していましたが、たまにお昼頃に帰宅できることがありました。
そんな日、気候の良い時期には、せっせとおむすびを作って卵焼きや唐揚げなど3人の子供の好物と一緒にお重に詰め、みんなでパパを駅まで迎えに行ったものです。
そして近所の公園に立ちより、心地よい風に吹かれながらおむすびをほおばるのです。3人の食べ盛りの子をもつサラリーマン一家の慎ましやかな行楽でしたが、満ち足りた、豊かな時間でした。
みなさまの中にも、毎朝早起きをして、ご家族のお弁当をこしらえているかたもいらっしゃるでしょう。
ばぁばは、お弁当は愛情の伝言箱だと思います。栄養や彩りを考えながら夫や子供の好物を詰め、お弁当箱が空っぽになって戻ってくると、ほっと嬉しくなる。それは家族からの「今日も愛情をおいしくいただきました」という返信だからです。
スーパーの総菜コーナーが年々拡大し、お弁当は“買う”時代になっても、手作りに敵うお弁当がないのは“愛情”の隠し味の違いだと思います。
昔々、私が子供だった頃、年に1~2度、母の歌舞伎見物のお供をすることがありました。
当日の朝、母はいそいそと歌舞伎見物用のお弁当を作るのですが、私は歌舞伎よりもこれが楽しみでした。普段は父や子供のために料理をしていた母にとって、自分を最優先に考えてこしらえるお弁当は、特別なものだったに違いありません。
頬なでる風が心地よく、新緑の眩しい季節になりました。愛情がいっぱい詰まったお弁当をもって、ご家族で賑やかにお出かけください。その思い出は一生の宝物になりますよ。
【ばぁば特製弁当のお品書き】(写真参照)
●さわらの黄身焼き
●ばぁば風牛肉のたたき
●ふんわり厚焼き卵
●鶏の丸(肉団子)とこんにゃく
●かまぼこ
●きゅうりの梅肉&みそのせ
●れんこんの甘酢漬け
●白飯
●いちご
撮影/近藤篤
※女性セブン2019年5月23日号