今年4月、英国王立協会の専門誌『バイオロジー・レターズ』に「屋外でも飼育されている猫は、完全室内飼育の猫に比べ、病原体や寄生虫に感染する確率が3倍近く高い」という論文が掲載された。
そこには、猫が運んでくる病原体の多くが、人間にも伝染する恐れがあることから、猫と飼い主の健康を守るためにも、猫は室内で飼うべきとの見解が述べられていた。
日本でも、環境省をはじめ多くの地方自治体が、感染症や交通事故、近隣トラブルなどのリスクから、猫の完全室内飼育を推奨している。
とはいえ、最終的な判断はあくまで飼い主に委ねられている。ペットフード協会が発表した「平成30年全国犬猫飼育実態調査」によると、約2割の飼い主が散歩で猫を外に出したり、“放し飼い”など、なんらかの形で猫を外に出しているとの結果になった。
猫専門病院Tokyo Cat Specialistsの獣医師・有田早苗さんによると、特に田舎や郊外など交通量の少ない地域では、放し飼いにしている飼い主が多いという。猫を外に出す場合、飼い主がすべきことは3つある。
まず1つ目は、連絡先を記入した首輪(セーフティーバックル付きのもの)やマイクロチップを猫につけて身元がわかるようにしておくことだ。
これは、万が一事故にあった時の身元確認や、野良猫に間違われて保健所に連れて行かれないようにするためだ。
2つ目は、不妊・去勢手術を行うこと。さらに、感染症・寄生虫の予防も必要だ。猫カリシウイルスや猫免疫不全ウイルス感染症(通称、猫エイズ)などのウイルス感染症は、グルーミングやけんか、交配など、感染している猫との接触で感染してしまうからだ。
「感染症に感染すると、目ヤニや鼻水といった風邪に似た症状が出て、場合によっては命の危険も。ワクチンを打ったからといって感染症を完全に予防できるわけではないですが、症状の重篤化を防ぐためにも必要なのです」(有田さん・以下同)
寄生虫には、ノミ・ダニ・シラミなど皮膚に寄生するものをはじめ、回虫・瓜実条虫など腸に寄生するもの、さらに暖かい時期になると蚊によって感染するフィラリア症などがある。
「これら寄生虫による病気は予防薬や駆虫薬によって対処できるため、屋外に出す場合は必ず使用しましょう」
そして、家の外の環境を把握することも大切だ。交通量や野良猫の数が多かったり、大型機材がある工事現場などが近くにあるのは危険なので外に出すのはやめた方がいい。
「猫にとって外に出ることは運動不足の解消など、いい面もあります。その一方で事故や病気などのトラブルと隣り合わせ。家の中でも退屈せず過ごせる環境を用意してあげれば、無理に外に出そうとしなくても大丈夫です」
犬のようにリードを用いて猫に散歩をさせるのは難しいという。室内飼いの猫にとっては、外の世界は縄張り外のため警戒心が働いてしまうからだ。ストレス解消どころか恐怖を与えてしまうケースすらあるという。
安全な家の中と比べ、外の世界は危険がいっぱい。愛猫の命を守るためにも猫の飼育は“完全室内飼育”を選択した方がいいのかもしれない。
※女性セブン2019年5月23日号