古くは16歳の吉永小百合が主演した映画『キューポラのある街』の舞台、最近では『翔んで埼玉』に登場する東京への“関所”所在地となった埼玉県川口市。近年、ベッドタウンとして人口は増加し続け、通勤の中核となる川口駅は京浜東北線しか停車しないこともあって利用実態に列車や駅の設備が対応しきれず、ラッシュ時に入場規制となることも珍しくない。駅の利便性向上と安全確保に取り組む川口市が構想する川口駅の未来について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
* * *
昨年4月、埼玉県川口市は中核市に移行した。荒川を挟んで東京都と隣接する川口市は、昭和期に鋳物の街として発展。平成期には、東京のベッドタウンとしての色を濃くした。
ベッドタウン・川口市の人口は約59万。埼玉県の市町村では、第2位を誇る。それだけに、玄関駅となる川口駅では朝・夕のラッシュ時にたくさんの人が利用している。
2017年度における川口駅の1日平均乗車人員は、約8万4000人にものぼる。東京23区内の駅と比べても、川口駅の乗車人員は遜色がない。しかし、川口駅には泣き所がある。それが、京浜東北線しか停車しないことだ。
鉄道のアクセス環境を改善するべく、川口市は再三にわたってJR東日本に湘南新宿ラインの川口駅停車を要望してきた。湘南新宿ラインの川口駅停車は、川口市の悲願でもあるが、埼玉県全体の発展にも欠かせない。
そうした背景から、埼玉県の上田清司知事も国土交通省やJR東日本に川口駅の湘南新宿ライン停車を繰り返し働きかけている。
「川口市が湘南新宿ラインの停車を要望している背景には、川口駅の利便性向上という目的があります。そして、それ以上に大きな理由もあります。それが、利用者の安全確保です」と話すのは、川口市都市計画部都市交通対策室の担当者だ。
川口駅のホームは1面2線構造だが、ほかの京浜東北線の駅と比べるとホームの幅は広い。ホームが広いために朝・夕のラッシュ時でも多くの利用者がホームで待つことができるものの、近年ではそのキャパシティを上回るほど利用者が増えている。ホームが混雑すると、線路に転落する危険性が高まり、輸送障害を起こしやすくなる。また、思わぬ事故を誘発する恐れもある。
「混雑を緩和するためにも、利用者の動線を分散する必要があります。川口駅は京浜東北線しか停車しませんが、高崎線・宇都宮線・湘南新宿ラインの線路はすぐ隣にあり、駅ホームで待っている利用者の目の前を通っています。高崎線・宇都宮線・湘南新宿ラインのホームを設置できれば利便性は向上し、混雑緩和も期待できます。そうした状況を踏まえて、湘南新宿ラインの川口駅停車を要望していたのです」(同)