墜落したF35Aによってもたらされる機密情報は、中国やロシアにとって喉から手が出るほど欲しいに違いない。岩屋防衛相は、この時、記者から中国による機体回収の可能性を問われ、「しっかり監視しているから、その可能性はない」という主旨を話している。
「潜水艦の技術は日本が一番。スクリューの角度や、微妙な曲がり具合をつける研磨技術は世界屈指。日本で研磨されたスクリューは、ソナーに引っ掛かりにくく音がしない。潜水艦のステルス性にかけては日本がトップだ。それに比べれば中国製のスクリューなんてひどいものさ。だから監視できると話すんだ」
「それでも今頃、中国もロシアも極秘裏に潜水艦で捜索しているさ。原子力潜水艦だから、ずっと潜航していられる。やつらが先に見つけたら、どんなことをしてでも引き上げるだろう。だから先に見つけなければならない」
日本に原子力潜水艦はないが、米国では潜水艦と空母は原子力でなければならない。法律でそう定められているという。
現場付近の海底でファン・ゴッホがフライトレコーダーや機体の一部を引き上げたというニュースが流れたが、肝心の飛行記録を保存したメモリーはなかった。事故機を含むF35A数機が、国内を飛行中、不具合が発生しているという報道もある。
「そこが問題だ。フライトレコーダーのメモリーがあれば墜落した理由がわかる。米軍も自衛隊もそれだけはなんとしても欲しい。F35Aは米国も日本も、まだまだ配備する予定だからね」
操縦者も見つかっていないが…。
「ベテランで年齢が41だと聞いた。これは推測だが、脱出していないからたぶん気絶したんだろう。年齢がいけば、ほんの少しの体調の変化でも気絶する。耐Gスーツの締めつけ具合がわずかに違うだけでも、身体にかかるG(重力)が変わり気絶する。意識があれば、なんとかして着水しようとするはずだから、機体はバラバラにならない。意識を失ってまっすぐに落ちたら、あれは軽い機体だから衝撃でバラバラになる」
操縦者のミスということか?
「気絶した後に墜落したならヒューマンエラーにはならない。パイロットは気絶していて、何もできなかったのだからね。どこの軍もそうだが、機体や耐Gスーツの開発で、昔よりパイロットにGはかからなくなったんだが、人間がヤワになってきている」
ベトナム戦争を経験している元大佐は、また両手を広げて肩をすくめた。
もし機体が見つかっても引き上げらなければ…?
「予測としては粉々になっていると思うがね。引き上げられなければ爆破だね。当然だろう。それが機密保持だ」
元大佐は、いともあっさりとそう言ってのけた。