制作側がどれほど意図したのか定かではないが、「効果」ははっきり出ているようだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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NHK総合午前8時の放送に先がけて、NHKBSプレミアムでは7時半から『なつぞら』が放送されています。そして、その前7時15分からは、最高視聴率62.9%と朝ドラの金字塔を打ち立てた『おしん』が再放送中。ということで、一部の熱心な朝ドラファンの間ではBSプレミアムで「2作続けて見る至福」が話題になっています。
特に滑り出しの頃の『おしん』で描き出された東北・小作農家の「貧しさ」、口減らしのため丁稚奉公に出されるくだりはすさまじかった。だから、その後に続く『なつぞら』の戦災孤児・なつの苦労も、「安心して見ていられる」という感想が生まれたほど。いわば、カップリング視聴が生み出す、奇妙な効果です。
そう。『おしん』と『なつぞら』をセットで見ることによって、単独の視聴では気づかないさまざまな発見がある。新しい視点が加わるのです。
もちろん『おしん』は明治から始まり、『なつぞら』は第二次世界大戦後からと、両者はまったく違う時代を描いています。が、ともに女性主人公の成長物語であり、家族を失い単独者として苦労し格闘し生きる力を身につけていく健気さ、たくましさが描かれる点も共通している。だからこそ、2つを対照させることによって、様々な気づきや発見が生まれてくるのでしょう。
例えば5月のこの時期、2作セット視聴を通して最も注目したいテーマは「家族における長老の役割」「その存在感」についてです。
ご存じ『おしん』の場合、少女期に重鎮的存在として登場するのは、おしんの奉公先である米問屋・加賀屋の女当主「くに」(長岡輝子)。その存在感は、生半可ではありません。視野が広く判断が冴えている。大店を切り盛りし家を繁栄させ、奉公人も含めて全体を上手に回していくリーダーシップが実に鮮やか。特に、くにがスゴイのは既存の正義や世に流布している常識・道徳というものに寄りかかるのでなく、自分の頭で考え複眼的に判断を下す点にあります。
例えば、周囲から見ればとても奉公人として役立ちそうもない、幼いおしんを「雇う」と決めた。理由は明解。おしんの家のような貧しい小作農が必死に米を作ってくれるおかげで、自分たち米問屋も回っている。だから人助けとしておしんを子守に迎えるのだ、と。つまり、自分の立場や利益だけでなく、産業構造全体を見据え小作農家と問屋とのつながりを留意した上での判断をするあたり、さすがです。
あるいは、チヤホヤ甘かやされて育った加賀屋のお嬢様・孫の加代と、下っ端奉公人にすぎないおしん、その両者を共に育てあげていく手腕も光っています。妙な「平等主義」にはならず身分の違いは違いとして、しかしお互いを刺激し伸びていく方向へと上手にしむけていく。その結果、二人の間には不毛な対立ではなく共鳴が生まれていきます。そう、くには厳しくも優しく、リアリストとしての冷静さも持ち合わせた懐の深い女当主です。