約14億4000万人──これは2012年に全世界で近視と報告された人の数であり、人類のおよそ22%にあたる。その数は年々増え続けており、2050年には世界人口の約半数である47億6000万人が近視となる見込みだという。スマホやパソコンが普及した結果、目を酷使する機会が急増したことが原因だとされる。
高齢化社会に伴い、白内障や緑内障の患者数も急増している。日本人の50代以上の2人に1人は白内障、40代以上の20人に1人は緑内障に悩んでいるというデータもある。
患者数の増加に比例して、治療法も格段に進歩している。中でも手術の普及は顕著で、白内障の手術件数は右肩上がりに伸びている。
手術を受けて「視界がくっきりして別世界」「ストレスなく本が読める」と喜ぶ人がいる一方で、効果がなかったという声も聞こえてくる。白内障で通院する主婦の森本洋子さん(仮名・62才)は大きなため息をつく。
「目薬を使いながら経過を観察していますが、医師から『そろそろ手術を考えましょうか』と言われました。でも周囲には、手術をしたけれど、視力は大して変わらなかったという人もいるし、術後に菌が入って感染症にかかって失明した人もいるらしい、なんて話も聞きます。なにせ、目の手術って怖いですよね。なかなか決断できません」
道玄坂加藤眼科院長の加藤卓次さんは「手術は効果が大きい半面、基本的には一度受けたら“後戻り”できないというリスクもある」と指摘する。
「だから事前に受けるべきか否か、また受けた場合どんなデメリットがあるかを知ってから後悔しない決断をすることが大事です」
つまり、正しい知識を得ることが目の病気を治すいちばんの近道だということ。ここからは、症状別に手術の要不要を検証していきたい。
◆白内障
80代での罹患率が9割を超えるといわれる白内障。専門家たちは「手術した方がいい」と声をそろえる。二本松眼科病院の眼科医・平松類さんが解説する。
「年齢とともに目の水晶体が濁っていき、視界がぼやけたり、モヤがかかってかすんで見えたりするようになる。個人差はあるものの、老化が進めば誰もが罹患する病気です」
軽度なら、進行を遅くする目薬を使って経過観察するが、進行して日常生活に支障をきたすようになれば、手術をする必要が出てくるという。
「手術は難しいものではなく、濁った水晶体を人工レンズに置き換えるというもの。通常は20分ほどで終わり、入院の必要はありません。一度入れた人工レンズは、ほぼ一生使うことができるため、基本的に再手術の必要もありません」(平松さん)