有名企業が意外な分野に進出する事例が相次いでいる。もともと、鉄道会社は沿線の生活や観光にあわせた多角経営をする傾向があったが、その分野はますます広がりをみせている。ライターの小川裕夫氏が、どちらかといえば男性向けの新規事業展開が多かった鉄道会社のなかでは初めて、化粧品分野に挑む京阪電鉄の新たな試みについてレポートする。
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鉄道は公共交通機関であり、一般的には移動手段と解釈される。しかし、鉄道事業者は不動産業や小売業などの副業も手掛けている。それらは子会社・系列会社などの別会社が担当することもあるが、グループ全体で事業を展開することで自社沿線に相乗効果を生み出し、新たな需要を創出してきた。
鉄道本来とは異なる事業との組み合わせによることで、鉄道事業を盛り上げるといったビジネスモデルを編み出したのは阪急の総帥・小林一三(1873生~1957没)と言われる。
鉄道の収益アップのため、小林は鉄道会社を単なる移動手段と考えなかった。沿線で多角的に事業を展開することで、全体で利益を出すこと仕組みを築いた。
例えば、梅田駅に多くの人が行き交う光景を見て、小林は駅に百貨店を併設させることを考案。今では主要駅にターミナル百貨店があるのは当たり前の光景になっているが、当時としては画期的だった。
同様に、小林は鉄道需要を掘り起こす目的で沿線に遊園地や宝塚歌劇団の劇場をつくった。プロ野球チームの阪急ブレーブスを創設したことも、野球観戦のために電車を利用してもらう仕掛けだった。
小林が築いたビジネスモデルは現在にも通用しているが、近年では社会環境・ライフスタイルの変化もあって、鉄道各社は新たな掘り起こし策を模索している。
JR九州は、農業に進出。東急は、電力自由化を機に電力事業に参入した。
そうした中、京阪電鉄の親会社でもある京阪ホールディングスが新たな事業として化粧品の製造・販売に参入することを発表した。
「鉄道とは無縁のようにも思われる化粧品の製造・販売ですが、京阪は”ビオスタイル(BIOSTYLE)”をコンセプトに新しいライフスタイルの提案打ち出しています。その提案を具現化する新事業として、化粧品の製造・販売に参入することにしたのです」と、背景を説明するのは京阪電鉄の広報宣伝担当者だ。