山崎製パンが他社の「イーストフード・乳化剤不使用」を謳う商品の成分を分析して、「実際はイーストフードや乳化剤と同等同質、あるいは同一の機能を有する代替物質を使用して製造されたもの」だと公表したことが話題になっている。だが、食品添加物の表示を避けるために、製パン各社のような手法が使われることは実はよくある。
食品の安全に詳しい科学ジャーナリストの松永和紀氏の著書『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)にはこんな事例が載っている。
食品添加物反対派だった生協(CO-OP(コープ)。消費生活協同組合)はかつて、肉の発色を良くする「発色剤(亜硝酸塩)」には発がん性があるとして、不使用を謳ったハムやソーセージを売っていた。そういった商品の中には、発色剤の代わりに岩塩が使われているものもあった。実は岩塩には亜硝酸塩が含まれていた。原材料名の表示は「岩塩」となり、添加物としての「亜硝酸塩」の名は消えたが、実際は亜硝酸塩を使っているのと同じだったのだ。
そもそも野菜には硝酸塩が多量に含まれており、食べるとその一部が体内で亜硝酸に変わる。亜硝酸の摂取量は、野菜からのほうがハムやソーセージの添加物で摂取する量よりはるかに多いと見られる。ハムやソーセージに添加物として使わなかったとしても、亜硝酸の摂取は避けられないのである。ハムやソーセージに添加される亜硝酸塩にはボツリヌス菌の増殖を抑える効果もある。
「今では生協も、亜硝酸塩を使ったハムやソーセージを扱っていますし、発色が悪くなりますが、亜硝酸塩も岩塩も使わず、厳しい衛生管理で細菌の増殖を抑えた製品も売っています。私は生協に呼ばれて食品添加物に関する講演をすることがよくありますが、昔に比べるとはるかに勉強されていて、生協は進化しているなと思います」(松永氏)
より安全な食品を求めて添加物を避けたいという気持ちは理解できるが、小さなリスクを無理して避けると、逆に大きなリスクを呼び込んでしまいかねない。無理して亜硝酸塩を避けようとしたら、野菜を摂らないようにしなければならず、不健康な食生活になって、さまざまな病気のリスクを高めることになる。
イーストフード、乳化剤にしても、大手メーカーのパンは安価で日持ちすることが求められるため、そもそも添加物の使用は必要不可欠なものである。成分表示を避けようとしたら、同等同質もしくは代替の物質を使わざるを得ない。それが嫌なら町のベーカリーで買えば良い、と言いたいところだが、町のパン屋でもイーストフードや乳化剤は普通に使われている。確実に口にしないためには、パンを手作りするほかない。