電話をかけて始まる特殊詐欺は、言葉の問題もあり国内で完結する詐欺事件だった。ところが、ネット経由で安く電話をかける方法が普及し、国境を越えた活動が特殊詐欺の世界に広まっている。国際化する特殊詐欺の世界について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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特殊詐欺の「国際化」が止まらない。
タイのリゾート地・パタヤを拠点に、日本向けに「振り込め詐欺」を行なっていた日本人の男ら15人について、警視庁は逮捕状を請求した。間も無く身柄を日本に移され、日本領に入った瞬間に、航空機内で逮捕される見通しだ。15人の身柄はタイ当局下に置かれており、今なお犯行の全貌は見えてこない。しかし、関係者に取材を進めていくと、驚くほどシステマチックな詐欺のシステムと、日本の暴力団、そして海外マフィアまでが加担する「国際化」の現実も見えてきた。
今回筆者の取材に応じてくれたのは、九州地方在住の元暴力団の男性(30代)。10代の終わり頃に“警察の暴力団名簿にも載っていた”(男性)というが、週に一度、組事務所の「当番」といわれる泊まり以外に、暴力団らしい仕事をした経験はない。その後、飲食店経営などをやるうちに自然と「カタギの仕事」で生計が立つようになり、暴力団から足を洗った。とはいえ、今も本職との付き合いはあり、かつて所属した組以外の人間とも交流が深い。
「私のように、一応本職ではないが組との付き合いもある、いわゆる“半グレ”が増えたでしょう。半グレはあくまでもカタギ(一般人)だから、なんでもできる。例えば、某広域指定暴力団は“組員に特殊詐欺をさせるな”とわざわざ通達まで出していますが、実際には黙認されている。儲けを出して上納金出す人間にあれこれ言えないんです。組員がこっそりやる場合と、組員が半グレなどにやらせる場合があるが、最近は後者のパターンがトレンド。半グレが特殊詐欺の出し子や受け子を捕まえてきて、暴力団員を介して、詐欺の現場に送る。結局、裏には絶対に暴力団がいる」(元暴力団男性)
半グレによるリクルートは、先輩後輩、そして地縁を辿って行われてきたが、最近では逮捕されるリスクも高く、末端要員集めは容易でなくなった。筆者がこれまでも書いてきた通り、SNSを通じたリクルートも行われているが、人材の「質の低下」は免れない。その結果、思わぬところからボロが出て、組織もろとも検挙される危険性も高い。そんな時、これら違法組織にとって「渡りに船」ともいうべき新たなパートナーが現れたのだという。