首都圏の中学受験者数は5年連続で増加するなど“受験熱”は上がる一方だが、難関私立中学は、より学力の高い生徒を囲いこもうと様々な手を打っている。安田教育研究所の安田理氏が、最新の入試要項をもとに「私学戦国時代」の様相をレポートする。
* * *
『戦国武将に学ぶ究極のマネジメント』(中公新書ラクレ)という本がある。NHK大河ドラマの14もの作品の時代考証を担当した二木謙一・国学院大学名誉教授の著書で、信長、秀吉、家康がどのような人材を登用しながら、版図を広げ、天下統一を成し遂げたかを書いたものだ。
二木教授は豊島岡女子学園の理事長・校長経験者でもあり、学校の事例も紹介されている。これを読みながら、いま私学がさまざまな手を駆使しながら生徒募集にあたっているさまは、まさに「私学戦国時代」だと感じた。
2020年度中学入試に向けて私学が打っている手を3つの観点から見ていきたい。
◆受験日の複数回実施へ
首都圏の中学入試の世界では、入試を1回しか実施していない学校がいわゆる「名門校」とされている。確かに東京、神奈川の男女の御三家(【東京男子】麻布・開成・武蔵、【東京女子】桜蔭・女子学院・雙葉、【神奈川男子】浅野・栄光学園・聖光学院、【横浜女子】フェリス女学院・横浜共立学園・横浜雙葉)は、聖光学院以外すべて1回だけである。
このほかの1回だけの学校は、駒場東邦、早稲田系2校(早稲田実業・早稲田大学高等学院)、慶應系3校(普通部・中等部・湘南藤沢)といった早慶の付属、キリスト教系(暁星・香蘭女学校・白百合学園・立教女学院・湘南白百合・青山学院)くらいしかなく、皆難度も高い学校ばかりである。
だが、中学受験人口は5年連続で増えているとはいえ、より質のいい層(学力の高い受験生、教育熱心な家庭)から選んでもらう競争は年々激化している。上記の学校のうち、2019年度入試では香蘭女学校が複数回実施に踏み切り(2月1日午前に加えて2月2日午後)、1620名もの志望者を集めて2019年度入試における最大の話題校となった。