【書評】『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』/高橋輝次・著/皓星社/2000円+税
【評者】川本三郎(評論家)
永井荷風『ボク(サンズイに墨)東綺譚』に好きなくだりがある。「わたくし」が、にぎやかな浅草を歩いたあと、裏通りに入り、夜まで店を開けている古本屋を訪れる。老いた主人から明治十年代の雑誌を見せられ、思わず心なごみ、「この時分の雑誌をよむと、生命が延るような気がするね」と言う。古本好きの心をよく語っている。
これまで数々の古本随筆を出されている高橋輝次さんは、まさに古書店に「古き良さ」を求めている古本者。「古いものは美しい」という信念のもとに、現代の人気作家やサブカルチュアには目もくれず、「わたくし」と同じように古いものに心の糧を求めて古本屋を歩く。
高橋さんは関西在住。出版社も東京一極集中になってゆく現代にあって、それに抗うように大阪や京都、神戸などの古本屋を歩いて、地元の文学者たちの埋もれた本を見つけ出してゆく。まさに「こつこつ」と歩く。テーマがはっきりしている。関西に住んだ作家や詩人たちの書を集めること。その徹底ぶりには感嘆する。地味に、詩人たちの同人誌を集め、紹介してゆく。
関西詩壇の重鎮だった杉山平一をはじめ、舟山逸子、紫野京子ら中央では、さほど知られていない詩人たちの詩集を古本屋で見つけ評価する。「古本者」の使命はその発見にあると思い定めている。中央中心、人気作家中心の古本エッセイが多いなか、本書のマイナー精神は素晴しい。