父の急死で認知症の母(84才)を支える立場になった女性セブンのN記者(55才)が、介護の日々を綴る。今回は、「占い」が現在でも母にとっての救いになっている、という話だ。
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老いてはいるが母も女子。御多分にもれず占いが大好きだ。私が物心ついたころから手相、占星術、ノストラダムスまで、信じてきた未来は数知れず。驚いたのは、認知症になっても人気占い師の予言は覚えていることだ。
◆30年前から母を支える新宿の“母”の言葉
食事や生活必需品の買い物も人任せになった母が、わずかな小遣いで自ら買うものは好きな小説本と認知症が特集されている雑誌、そして占いの本だ。大ファンの細木数子さんの「六星占術」の本や、ファッション誌の占い特集号も目ざとく見つけてゲットする。
こう言っては失礼だが、80代になっても占いに関心があるのかと正直、思う。「ねぇ占い、本当に信じているの? 根拠はあるわけ?」とちょっと意地悪く聞くと、「信じているわよ! だって当たるもの」と、驚くほどきっぱりと即答する。
何が“当たっている”のかといえば、30年ほど前、母が新宿伊勢丹本店(東京)脇の行列に並んで、あの「新宿の母」に鑑定してもらった手相占いである。
「薬指の下に、線があるでしょ? これ太陽線。これがすごくいい線だって、ほめられたの。あなた大丈夫よ。家族に恵まれて幸せになれますよって“母”が言ったの」
1分前のことを忘れる母が、30年前の占いの一部始終は鮮明に覚えている。よほどうれしかったのだろう。「新宿の母」の力か、わが母の思い込みか。占いの威力、恐るべし。
◆信じる力は活力。母の底力に敬礼!
私が小学生のころ『ノストラダムスの大予言』が大流行した。母もハマり、一緒にあれこれ未来を予想して、恐れおののいたのを覚えている。
そして中学生のころ、父の転勤で関西に転居し、その直後に父が病気で一時休職。見知らぬ地で母がひとりで家計を背負うことになり、明るい母から笑顔が消えた。当時を思い出すと、夜、母が電気スタンドの下で、手相の本と自分の手をじっと見比べていた姿が浮かぶ。心配になって近寄った私の手をグイッとつかみ、スタンドの明かりを照らして、「子供だから線が出ていないわね」と、陰気な易者のように呟いた母にギョッとした。
そういえば母は風水にもハマっていた。両親が40年近く住んだ団地を離れ、終の棲家を探していたとき、つきあって同行した不動産店で、母は持参した地図を広げたのだ。