自身の足跡として出演作を振り返っても、「へぇと他人事みたい」で時間の経過を意識することはやはりないのだとか。唯一節目となるのが、生活拠点となる軽井沢での暮らしだという。
「軽井沢の山から出て行って仕事をして、山へ戻る。そこで1回スイッチを切るというサイクルで、山での暮らしは自分にとって息継ぎのようなもの。これといって何をするわけではなく、ぼんやり本を読んだりたまにゴルフをしたりという生活ですが、眠りが深い。短い睡眠でもスッキリ目覚めます。軽井沢の高度は羊水の水圧と同じくらいの気圧だという話も聞いて、真偽はさておき、実際とても心地がよくて、気持ちも落ち着くんですよ」
安らげる住処で自身の息吹を感じ、新たな役の生命を身に宿す。そう語る表情は、穏やかで満ち足りていた。
●わたなべ・けん/1959年10月21日生まれ、新潟県出身。1983年、映画デビュー。1987年、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』に主演して一躍脚光を浴びる。2003年、『ラストサムライ』でハリウッドデビューを果たし、国内外で活躍。『明日の記憶』(2006年)、『沈まぬ太陽』(2009年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。東日本大震災後に被災地へ通って地元の声に耳を傾けて交流し、震災の脅威を世界に発信している。最新作は5月31日に日米同時公開されるハリウッド作品『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』。今夏に主演を務めるブロードウェイミュージカル『王様と私』の日本公演(渋谷・東急シアターオーブにて7月11日~8月4日)を控える。
■撮影/松田忠雄、取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2019年6月7日号