父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才・女性)が、介護の日々を綴る。今回は「うつ」と「認知症」についてだ。
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母の親きょうだいも認知症が多い。そのため昔から、「母も何か異変があればきっと認知症だろう」と、常に頭の片隅で考えていた。ところが実際の認知症診断の6年も前に、「頭の中がゆがんでいる」と訴えて受診。その時の診断は“うつ”だった。
◆「ママ、認知症かも」と自ら異変を訴えた母
「Nちゃん、一緒に病院へ行ってくれない? ママ、認知症かもしれない」と、電話がかかってきたのは12年ほど前。母が実際に認知症と診断される6年も前で、40年近く住んだ団地を離れ、父とふたりで転居したばかりの頃だ。
母の親族には認知症の人が多く、私の中にも両親への心配がモヤモヤとし始めてはいたのだが、当時72才の母は身なりや言動も若々しく、とても認知症とは思えなかった。認知症のことが小さく載った新聞記事を読んで、自ら受診しようと考える力もあった。
どう考えても母の妄想だと思ったが、勢いに負けて病院に同行することにした。
大学病院の精神科外来で、検査や診察の長い待ち時間の間、母は記事を見つけたことを自慢げにしゃべりまくっていた。その記事は、当時まだ耳慣れない「レビー小体型認知症」のこと。私もその時初めて知ったのだが、もの忘れより幻視が特徴だ。
「なんで自分が認知症だと思ったの? 幻視が見えた?」
「幻視なのかな? 頭の中がゆがんでるみたいなの」
…頭の中がゆがむ? 私にはまったく想像できず、母がふざけているのかとも疑った。得体のしれない不安がよぎり、数日後の診断にも立ち会った。
◆引っ越しでうつに? 知られざる高齢者の病
「調べた限りでは、認知症ではなさそうですね」と、若い精神科医がサラリと言った。
私はとりあえずホッとしたが、母は不満げに例の新聞記事の切り抜きを取り出して、「私、これじゃないでしょうか!?」と、詰め寄った。
「違いますよ。自分で認知症だと言ってくる人はあまりいません。それだけ意識が高ければ当分、大丈夫でしょう」と笑った。
「でも私、頭の中がゆがんでぼんやりするんですよ」と、母がすがるように訴え、近況をいろいろと話すと、医師はまじめな顔に戻って言った。
「引っ越しによる一時的な“うつ”かもしれません」
思いがけない言葉に私はびっくり、母は言葉を失った。引っ越しでうつになるというのが、何より驚きだった。